南スーダンを取材している朝日新聞の三浦英之さんの取材メモがツイッターなどで多くの方がリツイートしている。南スーダンの現実を伝えていると思われるのでここに紹介する。
三浦英之(朝日新聞アフリカ特派員)
政治家が戦争を始める時に欲するものは鉄と血、そして何より都合のいい悲劇だ。新聞やテレビのニュースを見て欲しい。そして考えて欲しい。これは自衛隊の問題じゃなく、私達日本国民の問題だから。武力による威嚇、武力の行使。私達は今、長年守り続けてきたものを南スーダンで失おうとしている。by三浦英之(朝日新聞アフリカ特派員)
混乱...が続く南スーダン。国連顧問は11日、首都ジュバで記者会見し、「民族間の暴力が激化し、ジェノサイド(大虐殺)になる危険性」と発表。「政治的な争いが完全な民族紛争になり得るものへと変質している」。日本の政府見解とは余りに違う。
南スーダンに入った。日本政府は15日、同国に派遣されている自衛隊に駆けつけ警護を付与する方針だ。自国以外で武器を使う事を頑に禁じてきた日本が、ついに海外での武器使用の拡大に踏み切る「初めの一歩」。今日見た事を伝える。
今年7月、現地では政府軍と反政府勢力との間で大規模な戦闘が起きた。実はその時、自衛隊の宿営地のすぐ隣の建築中のビルで丸2日間、激しい銃撃戦が起きていた。その現場に今日、政府軍の副報道官の案内で入った。
「ここに反政府勢力200人が立てこもり、自動小銃やロケットランチャーでバンバン撃ち始めた。政府軍は400人と戦車で反撃。敵は弾薬を使い果たして逃げた。23人を殺し、政府軍兵士も5人死んだ」。ビルに昇って驚いた。目の前に広がったのは自衛隊宿営地の全景。宿営地のすぐ隣の建物なのだ。
宿営地の写真は敢えて出さない。でもすぐ隣で日本国旗がはためき、自衛隊員が車に乗り込んだり、道を歩いたりしているのがはっきりと見える。副報道官は「(自衛隊)撃とうと思えばこの距離だから簡単に撃てるが、意味がない。奴らは(自衛隊宿営地のすぐ隣にある)空港を占拠するつもりだった」
先月ここを訪れた稲田防衛相や今月来た柴山首相補佐官は一体何を見て帰ったのだろう。何より現場の自衛官からどんな報告を受けたのか。戦闘はなかった、筈はない。まさに自衛隊の隣の建物で200人と400人が2日間もバンバン自動小銃やロケットランチャーを撃ちまくっているのだ。
この1カ月、現場取材を繰り返し、南スーダンの現状を出来る限り正確に見ようと努めた。実態が少なからず明らかになり、政府との見解や認識が如何に「絵物語」であるのかが浮き彫りになってきた。以下にまとめる。
▼10月20日、政府軍と戦闘を続ける反政府勢力トップが私との電話取材に応じ、「和平合意は崩壊した」と認識示す▼同25日、国際人権団体が7月の戦闘で国連部隊の近くのホテルを襲い、外国人を含む複数の女性を集団レイプしたのは80~100人の政府軍兵士だったと発表。
10月31日、同僚記者が南スーダンPKOトップと単独会見。「施設内にも180発の流れ弾が当たった」と言及▼11月1日、私が大規模略奪のあったWFP食料保管施設を訪問し、政府軍兵士らが略奪行為をしている現場を目撃。朝日新聞紙面で報道。
▼11月1日、国連が市民を保護する活動に失敗したと発表。▼2日、南スーダン政府情報相が同僚と単独会見し、「政府軍と国連部隊が一時交戦」と発言▼9日、ケニアが南スーダンPKOから撤退開始▼11日、国連の事務総長特別顧問が現状を「ジェノサイド(大量虐殺)になる可能性がある」と警告。
こんな状況で、政府はどの様な「見解」に基づき、自衛隊に武器の使用拡大を認めるのだろう。現実を無視して、自ら描いた夢物語で部隊を動かせば、立ち上がれない位傷ついた、あの15年戦争と同じ轍を踏む事につながる。
ご存じの通り、駆けつけ警護は単なる安保法制の第一弾ではない。海外における自衛隊の武器使用の範囲が緩和によって、自衛隊は前よりずっと撃ちやすくなる。勿論、今はまだPKOだ、国際貢献だ。でも「彼ら」の視線は多分、ずっと遠くを見ている筈だ。
米国でトランプを支持した人々の一部は間違いなく軍需産業の人達だろう。朝鮮、ベトナム、湾岸、イラク。米国は一定の周期で戦争を繰り返している。それをビジネスとして捉える人々は、オバマやヒラリーではなく、かつてのブッシュの様な好戦的なリーダーを待ち望んでいた筈だ。
巨大な同盟国に分別のつかないリーダーが誕生した今、昨夏に集団的自衛権を認めた祖国の過ちの深さを知る。我々は「米国は常に正しい」と信じようとしていなかったか。その大前提が崩れた今、気がつけば私達は同じ舟から降りられないでいる。
もし今後、自衛隊に一人でも犠牲者が出たらどうなるか。政府と一部の市民は感情に捕われて、現場から撤退するという選択肢を失う。今の流れがどんどん加速してしまう。政治家が戦争を始める時に欲するものは鉄と血、そして何より都合のいい悲劇だ。
何時もは原稿が記事になった後、個人的な思いを加筆して呟いてきた。でも今日だけは原稿にしていないものを流す。駆けつけ警護の付与判断に間に合わないから。代わりに翌日、新聞やテレビのニュースを見て欲しい。そして考えて欲しい。これは自衛隊の問題じゃなく、私達日本国民の問題だから。
憲法9条を諳んじる。日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。武力による威嚇、武力の行使。私達は今、長年守り続けてきたものを南スーダンで失おうとしている。
文・画像 三浦英之(朝日新聞アフリカ特派員)