私はかねてから何とか生きているうちに一度はヨーロッパでリュートの勉強をしたいと思っていた。しかし一方で、それなりにリュートも演奏しながらも、ひょっとしたらこのまま教員生活を続け、一生を終えるのかという諦念に近いものをだんだん持つようになってきていた。そもそも外国の音楽学校で勉強するにしても、当然年齢制限はあるだろう。プライベートのレッスンを受けに行くにしてもその先生の許諾をもらわなければ始まらない。しかしそれでは就学ビザはおりないだろうから、短期間しか滞在できない。もうすべてが遅すぎるし、音楽留学は夢のままに置いておくのも悪いことではないのでは。別に留学しなければリュートを弾けなくなるわけではないだろうから。でもやはり夢を忘れてはだめだ。とにかく教員をやめ音楽生活に入ったらどうか。そうしたら道は開けてくるのでは。私はある時期からこのような行き場のない問答を繰り返している自分自身を見るようになった。