リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

リュートという楽器 (5)

2005年02月04日 03時50分17秒 | 随想
 ヴァイスは現代に伝えられているものだけでも数十曲の組曲やソナタがあり、一人の作曲家が一つの楽器のために書いた全作品を総演奏時間で見るならば、音楽史上最も長い部類に入るだろう。彼がいなければ彼に触発された当時の若い奏者がさらに次の時代を担うこともなかったであろうし、同時代人のバッハがリュートに関心を持つこともあまりなかっただろう。バッハはBWV995~1000と1006aの7曲のリュートソロ作品を残し、受難曲やカンタータのオブリガートなどでもリュートを活用した。これはその当時のリュート奏者の活動を反映していることがベースではあるが、受難曲などのリュートの使い方を見ると彼は非常に高い関心を持ちそしてリュートの本質を見抜いていたに違いない。例えばヨハネ受難曲の第19曲目、バスのアリオーソ、劇的な音楽の次に続くほんの一瞬ともいえる静寂の世界、これを支えるオブリガートはリュート以外の楽器で表現しえようか。もっともバッハの晩年の稿では、リュートははずされているが、これは何らかの「現世的事情」でそうならざるを得なかった、と考えるのはリュート奏者的な身びいきのなせるわざか。