リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

Flow my teares の日本語訳(5)

2020年03月15日 15時37分52秒 | 音楽系
2行目です。
Exilde for ever; Let mee morne (Exiled forever; Let me mourn)
「永久に追われてしまった、私の嘆きを許されよ」

この2行目は文法的な説明が必要かも知れません。

Exilde (=Exiled)は exile(追放する)の過去分詞で、Exilde for everはいわゆる分詞構文です。少し補足して現代風に書けば、Being exiled forever で、副詞句になります。直訳的には「永遠に追放されてしまったので」とか「永遠に追放されたのだが」という感じで、置かれている状況を表しています。でもこのあたりは高校レベル。

let mee morne
morne (=mourn)は「嘆く、悲しむ」という意味、let は使役動詞で「~させる」ですので直訳では「私を嘆かせておくれ」です。この部分を「私は嘆きに沈む」(let の訳が出ていない)とか「嘆きに浸ろう」(誤訳、let's mournと勘違い?)とした訳文がありますが、これらは let ということばの意味合いが全く出ていなかったり、誤解しています。

let ということばは「行為の同時性・一体性を表す」といいます。※英文法の「なぜ」:朝尾幸次郎著、大修館2019

つまり、let mee morne は「私を許す」と「私が嘆く」が一体化している表現ということです。私が嘆くのを許してくれと許可を求めて、それから嘆くというのではないということです。「私を許して欲しい、その私はすでに嘆いている」あるいは「既に嘆き悲しんでいるこの私の状態を許して欲しい」ということです。そういう意味合いを込めて上のように訳しました。なおfor ever は永遠でも永久でも大差はないと思います。

ちなみに同じ許しを請うことばでも allow には行為の同時性・一体性はないそうで、

She allowed me go to school, but I declined to do so.(彼女は私が学校に通うことを許してくれたが、私はお断りした)というのは正しい文ですが、allowed の代わりにlet を使うと、「私は許されて学校に通うようになった」のに「断った」は意味が矛盾するので適格な文ではないそうです。※上掲の参考書から引用