リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

BWV997

2020年07月20日 22時22分02秒 | 音楽系
中止になった3月のコンサートで、BWV997のプレリュードとフーガを弾く予定でしたが、かないませんでした。フーガは特に技術的に難所が多くてしっかりと引き込んだのでとても残念でした。

その後まだ編曲していなかったサラバンド、ジグ、ドゥブルも編曲して、何度も編曲および楽譜の推敲の末、なんとかまとまりました。全曲を眺めてみるとやはりフーガが一番難しいです。ジグとドゥブルは思ったほど技術的に無理がなくスムーズに編曲、練習が進みました。まぁ言うなれば「普通に難しい曲」と言った感じです。これらに比べるとフーガは大変、普通ではありません。3月以降もさらに運指やアレンジ自体も何度も何度も変更しましたし、左指の技術的な面も見直してみました。

多分BWV997の編曲をして演奏を仕上げる時間で、ヴァイスの組曲なら10曲は軽く仕上がるのでは、というくらい時間がかかりました。今回はアーチ・リュートのための編曲ですが、今村編曲のバロック・リュート版と比較をしてみました。そもそもアーチ・リュートのために編曲をしたのは、1コースがgでバロックより1音高いので、有利なのではないかと考えて始めたのですが、途中何か所か本当に困難なところに遭遇しました。そういったところでは、ある程度練習を積めばなんとかできるようになる箇所と、そもそも指遣いに一定以上の無理があり、何度やってもできる確率が上がらないようなところがあります。無理があるところはバスをオクターブ下げたり、ポジションを工夫してなんとしました。今村編曲でもそういった工夫というか苦労のあとが随所に見られます。

ただアーチ・リュート編曲では弾きにくい箇所がバロックだとすんなり行ったり、その逆もありました。トータルではどんなものなんでしょうねぇ。どっちも大変ですが、アーチ・リュートで弾いた方が多少無理なところが少ないような気がします。確実に言えるのは弦長がアーチリュートの方が6cm近く短いのでその分だけは楽です。

プレリュード、サラバンド、ジグ・ドゥブルは基本2声ですが、フーガは3声です。やはり3声の曲をリュートで弾くのは本当に大変です。でもバッハの他の3声のフーガが曲りなりにでも弾けるのかというとほとんどそういった曲は見当たりません。この997のフーガはあり得ないくらい大変だとはいうものの、ぎりぎりリュートで弾けてしまいます。バッハはリュートは弾けなかったものの、リュート音楽のテクスチャはよくわかっていて、それを踏まえてラウテン・クラヴィアのために書いたのでしょう。

この曲が伝えられている写本は、(鍵盤)楽器の右手の音が1オクターブ高く書かれています。(とても高い音が多くて少し違和感があります)リュートで弾くときは、そんな高い音は出ないので、1オクターブ下げて弾きます。自筆は残っていないのでバッハが実際にそのように書いたのかはわかりませんが、弟子のアグリコラの筆写譜にははっきりとバッハ作と書かれていますので、原本にはそう書いてあったのでしょう。ただその表題は、楽譜の筆者とは手が違うような感じもしますが。

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2 コメント

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Unknown (やまねこ)
2020-07-21 20:02:24
こんばんは。
やはり997は難関ですね。
私も何度もこの曲の編曲版を手に入れて取り掛かるも挫折、そもそも技術的にも表現においても13コースに無理があると達観し、諦めて数年経ちます。
先生がご指摘のように鍵盤楽器ラウテンクラヴィーアのための曲だったのでしょう。ただし、あくまでリュートをイメージはしたのでしょうが、バッハも自分で取り組んだのでしょうが、鍵盤楽器よりも難関で音を拾う程度の初心者レベルだったように思えます。
でも、リュートにはご執心のようで、らしい曲調で、鍵盤ガット弦でそのイメージを膨らませていたのでしょう。
動画で海外の演奏家がバッハの997を弾くものを見たことがありますが、鍵盤楽器ならなんなく弾ける曲に思えましたね。
もし、ヴァイスがその楽譜を見ていたら、どんな風に超絶技巧で弾きこなしていたことでしょうか。まあある程度の変調弦は仕方ないにしても。
それと995も確かにリュートのための、とは間違いないのですが、コントラGをかましてくる当たりも釈然としません。あれもイメージだけで13コースでの弾けるか否かに無頓着であったのでしょうか。あのGは、とても重要な音に思えますし、わからないですねえ。

まあ、世界のトップ奏者が挑んでも、容赦のない難曲だと思います。
「どうしてそうまでして、君はバッハに取り組むのだい?」
・・・・「そこにバッハの曲があるからさ」
私自身の答えです。どうしても忘れがたく、諦めきれない魅力、魔力があります。
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re (nakagawa)
2020-07-21 20:11:52
995はアーチ・リュートだと普通にコントラGの音は取れますので、都合がいいです。1002も実は後半2曲(サラバンド・ドゥブル・テンポディボレア・ドゥブル)はハ短調で編曲しましたが、前半2曲もバロックでイ短調で編曲より(こちらも編曲しましたが)サウンド的にもいい感じです。
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