院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

患者さんは暴力団組長

2006-10-04 07:14:29 | Weblog
 昔、暴力団のB組長が患者として私のところへ来た。毎日、恐怖感があって眠れないとのことだった。

 その組長は気が荒く、自宅の前でクラクションを鳴らした車にかっとなり、木刀で車のガラスを割り、車全体をべこべこにしてしまったという。運転手が驚いて土下座しているところに、車の代金だと300万円の札束をポンと投げたという「武勇伝」の持ち主である。

 話をよく聞いてみると、息子の出来がよく、東大に受かったという。息子にまっとうな道を歩ませるには、自分が暴力団から足を洗わなくてならない。でも組長ともなると、指を詰めるだけでは駄目で、左腕をちょんぎって上層部に差し出さなければならないということだった。

 B組長は、それでノイローゼ状態になっていたのだ。

 そこで私は、上層部のA組長を呼んだ。暴力団の組長を相手にするなんて、私としても初めてで、かなり恐ろしかった。しかし、A組長は温厚な人だった。暴力団でも組長と下っ端とではずいぶん違うのだなと思った。

 私はB組長の現状を、A組長に縷々語った。そして、「あなたがB組長の立場だったらどうされますか?」と迫った。

 A組長は、しばらく考えた後、「先生がそこまでおっしゃるのなら、ここは先生の顔を立てましょう」と言った。

 その後も紆余曲折があった。金銭の授受など、私が知らない駆け引きが多々あったことだろう。でも、なんとかB組長は左腕を差し出さずに、足を洗うことができた。息子は優秀で東大在学中に司法試験に受かった。今は立派な弁護士になっている。

 私としては生涯忘れられない、恐ろしいやり取りだった。交渉期間中は、寝てもその事を考えていた。暴力団には二度とかかわりあいたくないと思う。そして暴力団の手打ちの仲介なぞ、医者の仕事ではないとも思う。

 (なお、この記事はB組長を初め関係者の承諾を得て掲載しました)。