院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

アメリカの医療制度と医学教育

2006-10-08 09:47:14 | Weblog
 アメリカのスペースシャトルの技術はすごい。アメリカの軍備もすごい。でも、すべての分野でアメリカがすごいわけではない。

 アメリカは医療の値段がバカ高い。出産費用は一件100万円である。それでいて質は日本より優れているわけではない。

 移植医療は日本より格段に広く行われている。でも、それは技術の差ではなく、制度の違いである。

 アメリカの健康保険制度はひどいものである。アメリカの健康保険は主に民間が行っているので、保険会社は医療費を値切ろうとする。その結果、保険を使うと限られた医療しか提供されない。保険に入っていなければ、医療を拒否されることもある。

 それに比べると、わが国の健康保険制度はずっとうまくいっている。お金の心配をあまりせずに、患者は必要なときに必要な(しかも最高度の)医療を受けられる。アメリカから見たら、夢のような話である。

 しかし、そのようなことは、日本ではあまり知られずに、まだ健康保険制度が不備であるとか、医師が怠慢であるとか、批判にさらされている。まったく道理が通らない批判である。

 ひとつはマスコミが20年以上続けている医師批判が影響している。(医師批判に比べて、看護師批判というのはないのが不思議である)。もうひとつは、政府の医療費削減政策である。今でさえ、医療費は国民一人当たりアメリカの半分である。それをさらに減らそうとする政府の真意が分からない。

 費用対効果という観点と、いつでも誰でも医療を平等に受けられるという観点から見れば、日本の医療は世界一である。健康的平均寿命も世界一である。なのに批判され続けている。あまり批判を続けると、そのうち医師のなり手がなくなり、その結果、医師の質が落ちて、そのツケは国民に回ってくることになる。(すでに産科が激減している)。

 話変わって、アメリカの医学教育について。

 アメリカは普通の大学を出て、そのあと医学部に行くようになっている。わが国では、「一定の社会常識を身につけてから医学部に入るのは、成熟した医師を育てられるから良いことだ」という論調がある。ここにも、なんでもアメリカは良いという発想の片鱗が見える。

 でも、それは違う。医学部では解剖学など無味乾燥な分野をマスターしなければならない。解剖学では、体の細かい血管や小さな骨の名称を何百何千と覚えなくてはならない。それも、日本語とラテン語とである。

 こうした訓練は若いうちにやらなければ駄目である。医師には社会経験も必要だろうが、それは医師になってからもできることである。記憶を主とする科目は、若いうちにやっておいたほうが良いことは議論の余地がない。

 だから、アメリカのように大学を出てから医学部に入るというのでは、もう遅いのである。すでに頭が固くなってしまっている。アメリカの医学生が、日本の医学生に比べて、解剖学的知識がどれだけあるか、疑問である。アメリカの学生が一番嫌いな科目はラテン語だそうである。

 日本の医療制度、医学教育はいずれもアメリカより優れていることを、多くの方々に知っていただきたいと思い、この稿を起こした。