(「NHK俳句」の一場面。中央が小澤實氏。明治大学・野生の科学研究所のHPより引用。)
俳人というとみな老人です。しかし、俳人の中に私より若くて私がむかしから注目してきた俳人が2人います。それは小澤實氏と長谷川櫂氏です。
小澤實氏は初め「鷹」所属、俳人協会賞を受けていますからホトトギスとは無縁です。2006年、句集「瞬間」で読売文学賞を受けています。彼の俳句に私が初めて接したのは、私が俳句を始める前、すなわち私が35歳くらいのことです。小澤氏は私より7歳年下ですから、きょう紹介する作品群は小澤氏が20代後半の作品でしょう。
小澤氏をご紹介する気になったのは、最近テレビの「NHK俳句」に選者として出演するようになったからです。
浅蜊の舌別の浅蜊の舌にさはり
夏芝居堅物(けんもつ)某(なにがし)出てすぐ死
ゆたんぽのぶりきのなみのあはれかな
くわゐ煮てくるるというに煮てくれず
虚子もなし風生もなし涼しさよ
第1句目「浅蜊の舌」は透徹した観察眼です。台所で塩水にひたした浅蜊に普通に見られる光景ですが、こうして句にされると不気味なほどのリアリティーがあります。
第2句目は、どさ回りの剣劇芝居を詠んだものでしょうか。堅物なにがしというチョイ役が出演したが、すぐに斬られて死んでしまうのです。田舎芝居にありそうな光景を巧みに詠んだものだと思います。
第3句目、湯たんぽのブリキの波を「あはれ」といっています。言われればそんな気がします。
第4句目は、とんでもなく素っ頓狂な句です。くわいを煮てくれると言ったのに、煮てくれなかったと文句を言っているのです。「くわゐ」という食物がもっている可笑しみが利いています。「くわゐ」が他のいも類であったなら、これほど面白い句にはならなかったでしょう。
第5句目は、大家を懐かしんでいるのか?それとも「いなくてよかった」と思っているのでしょうか?
やはり私の俳句より上だと思わざるを得ません、当たり前ですが。