院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

小澤實氏の俳句

2014-10-12 15:56:31 | 俳句

(「NHK俳句」の一場面。中央が小澤實氏。明治大学・野生の科学研究所のHPより引用。)

 俳人というとみな老人です。しかし、俳人の中に私より若くて私がむかしから注目してきた俳人が2人います。それは小澤實氏と長谷川櫂氏です。

 小澤實氏は初め「鷹」所属、俳人協会賞を受けていますからホトトギスとは無縁です。2006年、句集「瞬間」で読売文学賞を受けています。彼の俳句に私が初めて接したのは、私が俳句を始める前、すなわち私が35歳くらいのことです。小澤氏は私より7歳年下ですから、きょう紹介する作品群は小澤氏が20代後半の作品でしょう。

 小澤氏をご紹介する気になったのは、最近テレビの「NHK俳句」に選者として出演するようになったからです。

   浅蜊の舌別の浅蜊の舌にさはり
   夏芝居堅物(けんもつ)某(なにがし)出てすぐ死
   ゆたんぽのぶりきのなみのあはれかな
   くわゐ煮てくるるというに煮てくれず
   虚子もなし風生もなし涼しさよ

 第1句目「浅蜊の舌」は透徹した観察眼です。台所で塩水にひたした浅蜊に普通に見られる光景ですが、こうして句にされると不気味なほどのリアリティーがあります。

 第2句目は、どさ回りの剣劇芝居を詠んだものでしょうか。堅物なにがしというチョイ役が出演したが、すぐに斬られて死んでしまうのです。田舎芝居にありそうな光景を巧みに詠んだものだと思います。

 第3句目、湯たんぽのブリキの波を「あはれ」といっています。言われればそんな気がします。

 第4句目は、とんでもなく素っ頓狂な句です。くわいを煮てくれると言ったのに、煮てくれなかったと文句を言っているのです。「くわゐ」という食物がもっている可笑しみが利いています。「くわゐ」が他のいも類であったなら、これほど面白い句にはならなかったでしょう。

 第5句目は、大家を懐かしんでいるのか?それとも「いなくてよかった」と思っているのでしょうか?

 やはり私の俳句より上だと思わざるを得ません、当たり前ですが。

プラセボー(偽薬)効果(4)(有意水準(危険値)とは何か?)

2014-10-12 05:54:28 | 医療

陶芸の里あすかのHPより引用。)

 壺があって、その中に赤い豆1,000粒と白い豆1,000粒が混ざって入っていると想像してください。

 目隠しをしてその壺から豆を10粒取り出すとします。(これを1トライと呼ぶことにします。)取り出した10粒の豆は、赤と白がほぼ半々になるでしょう。しかし、全部赤い豆だったり、全部白い豆だったりすることもまれにあります。むろん、赤い豆が1粒で残りの9粒が白い豆のこともあります。

 このトライを100回くらい行うと、全部赤い豆や白い豆という例はきわめて少なく、5:5とか4:6ということが圧倒的に多いでしょう。そのときに、壺の中には赤い豆と白い豆が同じ数はいっていると言いきってよいかという問題が生まれます。

 200トライくらい行えば、5粒と5粒というケースが一番多いヒストグラムが出来上がります。200トライのまとまりをさらに20回行うとします。

 そうすると「壺の中には赤白が(ほぼ)同数入っている」という主張が20回できます。この20回の主張のうち、1回くらいは間違っていてもよいと制限をゆるくすると、「壺の中には赤白が(ほぼ)同数入っている」という主張は有意水準(危険値)を5%と見込むなら、言ってもよいということになります。

 しかしながら、有意水準を1%ときつくすると、まだまだトライの数が足りません。

 実は抗うつ剤SSRIの薬効調査で、プラセボーより効くという調査結果はすべて有意水準5%で行われています。1%ととするとほとんどの調査でプラセボーとの有意差がなくなってしまいます。

 さらに、有意水準5%で統計をとってもプラセボーとの有意差が見いだせられなかった調査は、そもそも発表さえされません。これを出版(公表)バイアスといい、現在問題になっていることは、2014-05-16 に述べたとおりです。そのページから「すべての治験を登録して公表せよ」というTEDの動画が見られますが、ここに再録します。(All Trials Registered...)。日本語字幕がついていて、たいへん分かりやすいので、ぜひご覧ください。

(私は統計学者ではないので、上の説明は数学的に不完全かもしれません。でも、概念的にお分かりいただければOKです。)