「瀬織津姫は人を奪らねば治まらない」。
「誰がこんな事言っているんだぁー」とお怒りになられる瀬織津姫フリークのお姉さま方、申し訳御座いません。私です。こんな罰当たりな事言っている馬鹿は。
実際は「荒雄川は人を奪(と)らねば治まらない」が正解です。どこでそんな伝承が残っているのか。それは荒雄川の川渡温泉でです。具体的には荒雄湖近辺での伝承の様です。
荒雄川は宮城県鳴子町鬼首を流れる川です。蝦夷の基盤だった地の川と言えます。
この荒雄湖、荒雄川を堰き止めて造った人造湖ですが、昔は荒雄川のこの流域が度々増水し、洪水となって暴れ狂っていた。故に「荒雄川は人を奪らねば治まらない」と古来から言われていたそうです。だからこそこの流域を堰き止めダム湖を造り、川の氾濫を抑えたと言う訳なのでしょうね。
更には「荒雄は雨が降れば人を奪る」とも言われています。そして極み付けには「荒雄川のどこかで水死体が出れば、それでまもなく水が引く。洪水の猛威も治まる」と語られていたそうです。これはどう言う事でしょうか。
私、以前「瀬織津姫も鬼渡神もあんころ餅が大嫌い。【川渡し餅編】」と題して記事を書きました。新潟県や福島県、そして北関東には「川渡し餅」と言う風習があり、現在は川の神に昔は貴重だった甘い物をお供えする行事となっているが、本来は陰陽五行の考えから「あんころ餅やおはぎ等々の甘い食べ物を川に投げつけて水神を調伏・封印し、洪水を防ぐのだ」と書きました。
何故なら甘い物は陰陽五行の考えでは土に分類される。土は水を濁す。堰き止める。故に水は土に弱い。だから水神である瀬織津姫、そして鬼渡神は土である甘い物に弱いとなります。
何故甘い物は土なのか。それは水辺に好んで繁殖する桂の木の葉が枯れて落ち、水滴が付いて発酵。それが天日で乾燥しマルトールの薫り、つまり甘い綿飴の薫りを発する。
枯れ葉は既に土。桂の枯葉から発する甘い薫りは土の香り。だから甘い物に瀬織津姫・鬼渡神は弱いと考えました。
では何故、水死体が出ると洪水が引くのか。
これは簡単です。死体はもはや土なのです。川の氾濫を抑えるために生贄を供える伝承がありますが、水神は生贄が欲しいのではなく、土である死体が嫌い。だから川の氾濫を死体で抑えられると考えた。水神・瀬織津姫、そして鬼渡神も然り。水神故、土である死体に弱いと言う事だと思います。
それでなくても言い伝え・伝承の地は川渡温泉です。「川渡」故に「川渡り餅」の儀式が重なる。渡し信仰が残っているから「川渡温泉」と言う地名なのではないでしょうか。
荒雄川の主は大蛇とされています。そして里宮の荒雄川神社の祭神はスサノオ尊と瀬織津姫。奥宮の荒雄川神社の祭神は豊受大神とされる大物忌主。
実は大物忌主は瀬織津姫の威厳を高めた名であるとも言われてます。だから荒雄川の神は瀬織津姫。故に「瀬織津姫は人を奪らねば治まらない」と題しました。
瀬織津姫は人を溺れさせ殺すのではなく、土である死体が嫌い。だから水死体が出ると氾濫が治まると私は考えます。その点は誤解しないようお願いしますね。
あっ、そうそう、荒雄川神社里宮に祀られているスサノオ尊を忘れていました。通常なら瀬織津姫はスサノオ尊の娘である市杵嶋姫と同神。故に父と娘で親子仲良く祀られていると考えると思います。
でも私の考えは違います。瀬織津姫は怨霊。怨霊を抑えるには乱暴者。故に瀬織津姫を抑える為にスサノオ尊を祀っていると考えます。
この辺はまたお題を変えてお話したいと思います。
ではでは。