平成29年1月3日
マイナンバー制度について、これまでのブログを「マイナンバー」のカテゴリ-にまとめました。
個人番号制度(マイナンバー)導入については、平成24年1月21日の「番号制度シンポジュームin岡山」から取り組みの状況を見てきました。
皆さんそれぞれの考えがあるとは思いますが、私は当初から導入には賛成です。
これまでの経過を振り返る参考にしていただければと考えます。
カテゴリ-「マイナンバー」で26件の投稿をしています。
マイナンバー制度をめぐる大誤解――国税庁は何を狙っているのか?
元国税調査官、フリーライター 大村大次郎
元国税調査官。国税局に10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、ビジネス関連を中心としたフリーライターとなる。
単行本執筆、雑誌寄稿、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修等。主著にベストセラー『あらゆる領収書は経費で落とせる』、『 税務署員がこっそり教えるお金の裏ワザ 』(ともに中公新書ラクレ)。
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20151224-OYT8T50148.html?page_no=2
2015年12月29日 05時20分
マイナンバー制度を巡っては、個人情報が漏えいしやすいとか、詐欺行為が横行するといったニュースが今も駆けめぐっています。
一方、政府や地方自治体は、この制度が国民の日常生活にどう役立つかを示し始めた段階ですが、それぞれの機関によってマイナンバー制度の応用方法は異なるようです。
元国税調査官のフリーライター、大村大次郎氏による「国税庁の狙い」を通読すると、この国に横たわっている深い病理が浮かび上がってきます。
マイナンバーは、この国の不公平をただす武器になるのでしょうか。
マイナンバー制の大誤解
2015年からマイナンバーが導入されました。
マイナンバー制は当面、税金と年金についてのナンバーリングということになっていますが、2018年からは預貯金口座にもナンバーがふられることになっています。
当局がもっとも狙っているのは、この預貯金のナンバーリングです。
現在のところ(2015年6月末)、預金者が国に自分の銀行口座情報を告知するか否かは任意になっています。
この告知義務化が検討されているのです。
預金口座開設の際にも、マイナンバーが必要とされるようになることも予定されています。
つまり、やがて預貯金口座とマイナンバーが紐づけされていくことは間違いないのです。
預貯金にナンバーリングされるようになると、国民の預貯金がすべて国家に把握されることになります。
これに関しては、「プライバシーの侵害」「国家から財産が監視される」などと警戒感を抱いている人も多いようです。
国家の不都合な人物をターゲットにして、資産関係を洗いざらい調べ、その人を不都合な方向に追い込むのではないか、戦前の治安維持法のようなことが起きるのではないか、というのです。
が、これは大きな勘違いなのです。
実は、マイナンバー制が導入されたからといって、国家は、「今まで知りえなかった国民の情報」を取得できるようになるわけではありません。
というのは、現在の税法においても、国家は、「すべての国民の収入と資産を知る権利」を持っているのです。
というのも、そもそも、税務当局というのは、現行の法律の中でも、市民の財産を丸裸にしようと思えばできるのです。
現在、税務署の国税調査官たちには、「質問検査権」という国家権限を与えられています。質問検査権とは、国税調査官は国税に関するあらゆる事柄について国民に質問できる、という権利です。国民はこれを拒絶する権利はありません。
警察は、何か犯罪の疑いのある人にしか取り調べはできません。
任意で話を聞くというようなことはありますが、それはあくまで「任意」です。その人には、拒否する権利もあります。だから、誰かを取調べしようと思えば、逮捕したり勾留したりする以前に客観的な裏付けが必要となります。
また勾留期限なども法的に定められており、何の証拠もないのに、誰かを長時間拘束したりはできません。
しかし、国税調査官の持っている質問検査権の場合は、そうではありません。
日本人に対してならば、どんな人に対しても、国税調査官は税金に関して質問する権利を持っているのです。赤ん坊からお年寄りまでです。
国民はすべて国税調査官の質問に対して、真実の回答をしなければなりません。拒否権、黙秘権は認められていないのです。
つまり、今の税法においては、すでに国家は国民の経済生活すべてを監視、把握する権利を持っているのです。だから、マイナンバーが導入されたからといって、新たに、我々の権利が侵害されるようなことは、ないのです。
それと、もう一つ冷静に考えて頂きたい点があります。
「あなたは国家から資産を把握されて困ることがありますか?」
ということです。
現在の日本の勤労者は、ほとんどの人が、一つの会社から給料をもらっているだけであり、資産もそれほど多岐にわたっていることはありません。
中間層以下の人たちの収入、資産については、今でも十分に、当局は把握できているのです。
でも、今まで我々は、それで困るようなことは、まったくなかったはずです。
マイナンバー制の目的は富裕層資産の把握
マイナンバー制度の導入には、富裕層の資産を正確に把握するという目的があります。
マイナンバーで影響を受ける人というのは、簡単に言えば
・申告をしていない多額の収入や多額の資産がある人
・不正的な収入を得ている人です。
多額の収入や資産がある人について、その収入や資産をきっちり把握したい、というのが、マイナンバー制の目的の一つです。
富裕層の中には、収入や資産を隠そうとしている人もいます。
収入の一部を、簿外の預貯金口座や他人名義の口座に振り込ませて、申告していなかったり、自分の資産を家族名義の預金口座に分散し、相続税を逃れようとしたりする行為です。
マイナンバー制を導入し、預金口座の紐づけが進めば、富裕層のそういう「隠し資産」が明るみになるのです。
実は、今の日本は思われている以上に急激な勢いで経済格差が進んでいます。それは、日本の経済社会をいびつな形にしています。
巨額の財政赤字を抱えている一方で、個人金融資産は、1500兆円もあるのです。
一人当たりの金融資産は1千万円を超え、アメリカに次いで世界第2位です。しかも、この個人金融資産はこの20年で急増しているのです。
1990年の段階では1017兆円でしたが、2006年には1500兆円を超えています。わずか16年で50%増になっているのです。その後、リーマンショックの影響で若干減りましたが、現在また盛り返し1500兆円以上を保有しています。
この個人金融資産の大半は、一部の富裕層が握っていると見られています。
だって、そうでしょう?
1500兆円というと、国民一人当たり1千万円以上持っている計算になります。赤ん坊からお年寄りまで、みんな一千万円以上の金融資産を持っているのです。
しかも、これは家などの不動産は除いた「金融資産」だけの話です。あなたのご家族にはそんな資産がありますか?おそらくほとんどの方はそうではないはずです。
つまりは、この金融資産の大半は、一部の富裕層が持っているのです。
90年代のバブル崩壊以降、日本経済が長い低迷に陥っているときに、個人金融資産は400兆円も上積みされていたわけです。つまり、「景気が悪い、景気が悪い」と言われながら、儲かっている奴は儲もうかっていたわけです。
それが、格差社会の大きな要因でもあり、日本の財政が悪化している要因でもあります。
なぜこんなに個人金融資産が増えたのかというと、その大きな要因は金持ちの税金の取りっぱぐれです。
あまり知られていませんが実は日本の金持ちは、先進国の中で実質税負担率が異常に低いのです。
いや、名目の富裕層の税率は、日本は高いのです。
日本の所得税の最高税率は40%なので、先進国の中ではもっとも高いといえます。
しかし、日本の所得税には、金持ちに対する様々な抜け穴があるため、実際の税率よりもかなり低いもので済むようになっているのです。
わかりやすい例を示しましょう。
先進主要国の国民所得に対する個人所得税負担率は、日本は断トツで低いのです。
アメリカ12,2%、イギリス13、5%、ドイツ12,6%、フランス10,2%に対して、日本はわずか7、2%です。
また信じられないかもしれませんが、日本の金持ちはアメリカの金持ちの半分以下しか税金を払っていないのです。
2009年のアメリカの個人所得税は、1兆2590億ドルでした。
これは日本円に直すとだいたい100兆円ちょっとです。
一方、日本の2009年の個人所得税は、15兆5千億円程度です。
なんと7分の一以下である。人口比、GDP比を考慮しても半分以下となります。
アメリカと日本の所得税の税収がこれほど違うのは、“金持ちの税金の抜け穴”がものを言っているのです。
個人所得税というのは、先進国ではその大半を高額所得者が負担しているものです。
国民全体の所得税負担率が低いということ、すなわち「高額所得者の負担が低い」ということを表しているのです。
これはつまり、日本の富裕層は、先進国の富裕層に比べて断トツで税負担率が低いということなのです。
この金持ちの税金の抜け穴を是正する手段の一つが、マイナンバー制の導入なのです。
暴力団の上納金に課税せよ!
マイナンバー制導入のもうひとつの目的に、「ブラック・マネー」の一掃ということもあります。
具体的に言えば、暴力団関係者などの非合法的な収入の封じ込めです。暴力団関係者の非合法収入をあからさまにし、違法行為があれば処罰し、脱税があれば追徴するということです。
これまで、暴力団関係者などの「非合法事業」については、ほぼ100%脱税状態となっていました。
しかし、税法から言うならば、麻薬の密売であろうが、ミカジメ料であろうが、収入があるならば税金を納めなくてはならないのです。
が、税務署がいきなりヤクザのところへ行って、「あなた、今年は覚醒剤の売上収入が1億円ありましたので、4千万円税金を払ってください」とはいえません。犯罪行為を発見することが、税務署には難しいからです。
暴力団の上納金についても、これまではなかなか課税することができませんでした。
税金を課すためには、お金が誰に渡ったのか、そしてそのお金を得た者が、個人的に費消したということが判明して初めて課税をすることができるのです。
しかし、上納金の場合、当然のごとく領収書は発行されません。誰が誰からどのくらいのお金を受け取ったのかということは、なかなか把握できないのです。税務当局は、そこまで調べない限りは、暴力団の上納金に課税をすることはできないのです。
が、マイナンバー制が導入されれば、お金の流れや溜まった場所が見えてくるので、誰がどの程度の収入を得ているのかがわかりやすくなります。そうなると、犯罪の証拠にもなるし、課税もやりやすくなるのです。
もしかしたら、マイナンバー制で一番、戦々恐々としているのは、暴力団関係者かもしれません。
自分の資産を守る本当の方法とは?
国税や財務省の官僚たちも、「富裕層の税金が安い」「今の日本の税制が不公平」ということは、わかっていることです。
そして、それを良しとしているわけではありません。
多くの官僚たちは、どうにかして富裕層の課税を強化したいと考えています。
が、政治がらみのいろんな事情で、これまで逆のことをせざるを得なかったのです。
この20年間、所得税や相続税の最高税率は大幅に下げられてきました。それが格差社会の一因ともなっています。
それは、財務官僚たちにとっても、決してすっきりしたものではなかったのです。
彼らも本音を言えば、富裕層からもっと税金を取るべきと思っているのです。
富裕層の課税を強化する場合に、もっとも重要なことは、彼らの収入や資産をきっちり把握することです。税金を課すにはそれが一番、重要なことなのです。
しかし、富裕層の収入や資産というのは、複雑に多岐にわたっていることが多いのです。複数の会社から報酬を得ていたり、様々なところに投資を行ったり、不動産収入があったりします。
それを一つ一つ確認するには大変な作業を要します。現行では、それを完全にやり遂げるのは不可能なのです。
そこで、マイナンバー制を導入しようということになったのです。
少子高齢化社会を迎え、我々の経済生活はますます苦しくなってきます。
我々は、自分の資産を守らなくてはなりません。
そのためには、冷静で正確な情報分析が必要です。
マイナンバー制も冷静に分析すれば、決して悪いものではありません。なぜなら、マイナンバー制でダメージを受けるのは、これまで所得や資産を隠すことが出来ていた富裕層だからです。
我々は、所得や資産を隠すことはできず、税金をきっちりかけられてきました。我々の税金をこれ以上、増やさないためには、富裕層にしっかり税金を払ってもらうしかありません。そのために、マイナンバー制度が必要なわけです。
拙著『税務署員がこっそり教えるお金の裏ワザ』でも述べたように、自分の資産を守り、快適な生活を維持していくためには、正確な情報が不可欠だといえます。
老後の資産を蓄えるにはどうすればいいか、年金の不足分を補うにはどうすればいいか。マイナンバー制の導入は、それを考えるのに、ちょうどいい機会なのかもしれません。
マイナンバー制度について、これまでのブログを「マイナンバー」のカテゴリ-にまとめました。
個人番号制度(マイナンバー)導入については、平成24年1月21日の「番号制度シンポジュームin岡山」から取り組みの状況を見てきました。
皆さんそれぞれの考えがあるとは思いますが、私は当初から導入には賛成です。
これまでの経過を振り返る参考にしていただければと考えます。
カテゴリ-「マイナンバー」で26件の投稿をしています。
マイナンバー制度をめぐる大誤解――国税庁は何を狙っているのか?
元国税調査官、フリーライター 大村大次郎
元国税調査官。国税局に10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、ビジネス関連を中心としたフリーライターとなる。
単行本執筆、雑誌寄稿、ラジオ出演、フジテレビ「マルサ!!」の監修等。主著にベストセラー『あらゆる領収書は経費で落とせる』、『 税務署員がこっそり教えるお金の裏ワザ 』(ともに中公新書ラクレ)。
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20151224-OYT8T50148.html?page_no=2
2015年12月29日 05時20分
マイナンバー制度を巡っては、個人情報が漏えいしやすいとか、詐欺行為が横行するといったニュースが今も駆けめぐっています。
一方、政府や地方自治体は、この制度が国民の日常生活にどう役立つかを示し始めた段階ですが、それぞれの機関によってマイナンバー制度の応用方法は異なるようです。
元国税調査官のフリーライター、大村大次郎氏による「国税庁の狙い」を通読すると、この国に横たわっている深い病理が浮かび上がってきます。
マイナンバーは、この国の不公平をただす武器になるのでしょうか。
マイナンバー制の大誤解
2015年からマイナンバーが導入されました。
マイナンバー制は当面、税金と年金についてのナンバーリングということになっていますが、2018年からは預貯金口座にもナンバーがふられることになっています。
当局がもっとも狙っているのは、この預貯金のナンバーリングです。
現在のところ(2015年6月末)、預金者が国に自分の銀行口座情報を告知するか否かは任意になっています。
この告知義務化が検討されているのです。
預金口座開設の際にも、マイナンバーが必要とされるようになることも予定されています。
つまり、やがて預貯金口座とマイナンバーが紐づけされていくことは間違いないのです。
預貯金にナンバーリングされるようになると、国民の預貯金がすべて国家に把握されることになります。
これに関しては、「プライバシーの侵害」「国家から財産が監視される」などと警戒感を抱いている人も多いようです。
国家の不都合な人物をターゲットにして、資産関係を洗いざらい調べ、その人を不都合な方向に追い込むのではないか、戦前の治安維持法のようなことが起きるのではないか、というのです。
が、これは大きな勘違いなのです。
実は、マイナンバー制が導入されたからといって、国家は、「今まで知りえなかった国民の情報」を取得できるようになるわけではありません。
というのは、現在の税法においても、国家は、「すべての国民の収入と資産を知る権利」を持っているのです。
というのも、そもそも、税務当局というのは、現行の法律の中でも、市民の財産を丸裸にしようと思えばできるのです。
現在、税務署の国税調査官たちには、「質問検査権」という国家権限を与えられています。質問検査権とは、国税調査官は国税に関するあらゆる事柄について国民に質問できる、という権利です。国民はこれを拒絶する権利はありません。
警察は、何か犯罪の疑いのある人にしか取り調べはできません。
任意で話を聞くというようなことはありますが、それはあくまで「任意」です。その人には、拒否する権利もあります。だから、誰かを取調べしようと思えば、逮捕したり勾留したりする以前に客観的な裏付けが必要となります。
また勾留期限なども法的に定められており、何の証拠もないのに、誰かを長時間拘束したりはできません。
しかし、国税調査官の持っている質問検査権の場合は、そうではありません。
日本人に対してならば、どんな人に対しても、国税調査官は税金に関して質問する権利を持っているのです。赤ん坊からお年寄りまでです。
国民はすべて国税調査官の質問に対して、真実の回答をしなければなりません。拒否権、黙秘権は認められていないのです。
つまり、今の税法においては、すでに国家は国民の経済生活すべてを監視、把握する権利を持っているのです。だから、マイナンバーが導入されたからといって、新たに、我々の権利が侵害されるようなことは、ないのです。
それと、もう一つ冷静に考えて頂きたい点があります。
「あなたは国家から資産を把握されて困ることがありますか?」
ということです。
現在の日本の勤労者は、ほとんどの人が、一つの会社から給料をもらっているだけであり、資産もそれほど多岐にわたっていることはありません。
中間層以下の人たちの収入、資産については、今でも十分に、当局は把握できているのです。
でも、今まで我々は、それで困るようなことは、まったくなかったはずです。
マイナンバー制の目的は富裕層資産の把握
マイナンバー制度の導入には、富裕層の資産を正確に把握するという目的があります。
マイナンバーで影響を受ける人というのは、簡単に言えば
・申告をしていない多額の収入や多額の資産がある人
・不正的な収入を得ている人です。
多額の収入や資産がある人について、その収入や資産をきっちり把握したい、というのが、マイナンバー制の目的の一つです。
富裕層の中には、収入や資産を隠そうとしている人もいます。
収入の一部を、簿外の預貯金口座や他人名義の口座に振り込ませて、申告していなかったり、自分の資産を家族名義の預金口座に分散し、相続税を逃れようとしたりする行為です。
マイナンバー制を導入し、預金口座の紐づけが進めば、富裕層のそういう「隠し資産」が明るみになるのです。
実は、今の日本は思われている以上に急激な勢いで経済格差が進んでいます。それは、日本の経済社会をいびつな形にしています。
巨額の財政赤字を抱えている一方で、個人金融資産は、1500兆円もあるのです。
一人当たりの金融資産は1千万円を超え、アメリカに次いで世界第2位です。しかも、この個人金融資産はこの20年で急増しているのです。
1990年の段階では1017兆円でしたが、2006年には1500兆円を超えています。わずか16年で50%増になっているのです。その後、リーマンショックの影響で若干減りましたが、現在また盛り返し1500兆円以上を保有しています。
この個人金融資産の大半は、一部の富裕層が握っていると見られています。
だって、そうでしょう?
1500兆円というと、国民一人当たり1千万円以上持っている計算になります。赤ん坊からお年寄りまで、みんな一千万円以上の金融資産を持っているのです。
しかも、これは家などの不動産は除いた「金融資産」だけの話です。あなたのご家族にはそんな資産がありますか?おそらくほとんどの方はそうではないはずです。
つまりは、この金融資産の大半は、一部の富裕層が持っているのです。
90年代のバブル崩壊以降、日本経済が長い低迷に陥っているときに、個人金融資産は400兆円も上積みされていたわけです。つまり、「景気が悪い、景気が悪い」と言われながら、儲かっている奴は儲もうかっていたわけです。
それが、格差社会の大きな要因でもあり、日本の財政が悪化している要因でもあります。
なぜこんなに個人金融資産が増えたのかというと、その大きな要因は金持ちの税金の取りっぱぐれです。
あまり知られていませんが実は日本の金持ちは、先進国の中で実質税負担率が異常に低いのです。
いや、名目の富裕層の税率は、日本は高いのです。
日本の所得税の最高税率は40%なので、先進国の中ではもっとも高いといえます。
しかし、日本の所得税には、金持ちに対する様々な抜け穴があるため、実際の税率よりもかなり低いもので済むようになっているのです。
わかりやすい例を示しましょう。
先進主要国の国民所得に対する個人所得税負担率は、日本は断トツで低いのです。
アメリカ12,2%、イギリス13、5%、ドイツ12,6%、フランス10,2%に対して、日本はわずか7、2%です。
また信じられないかもしれませんが、日本の金持ちはアメリカの金持ちの半分以下しか税金を払っていないのです。
2009年のアメリカの個人所得税は、1兆2590億ドルでした。
これは日本円に直すとだいたい100兆円ちょっとです。
一方、日本の2009年の個人所得税は、15兆5千億円程度です。
なんと7分の一以下である。人口比、GDP比を考慮しても半分以下となります。
アメリカと日本の所得税の税収がこれほど違うのは、“金持ちの税金の抜け穴”がものを言っているのです。
個人所得税というのは、先進国ではその大半を高額所得者が負担しているものです。
国民全体の所得税負担率が低いということ、すなわち「高額所得者の負担が低い」ということを表しているのです。
これはつまり、日本の富裕層は、先進国の富裕層に比べて断トツで税負担率が低いということなのです。
この金持ちの税金の抜け穴を是正する手段の一つが、マイナンバー制の導入なのです。
暴力団の上納金に課税せよ!
マイナンバー制導入のもうひとつの目的に、「ブラック・マネー」の一掃ということもあります。
具体的に言えば、暴力団関係者などの非合法的な収入の封じ込めです。暴力団関係者の非合法収入をあからさまにし、違法行為があれば処罰し、脱税があれば追徴するということです。
これまで、暴力団関係者などの「非合法事業」については、ほぼ100%脱税状態となっていました。
しかし、税法から言うならば、麻薬の密売であろうが、ミカジメ料であろうが、収入があるならば税金を納めなくてはならないのです。
が、税務署がいきなりヤクザのところへ行って、「あなた、今年は覚醒剤の売上収入が1億円ありましたので、4千万円税金を払ってください」とはいえません。犯罪行為を発見することが、税務署には難しいからです。
暴力団の上納金についても、これまではなかなか課税することができませんでした。
税金を課すためには、お金が誰に渡ったのか、そしてそのお金を得た者が、個人的に費消したということが判明して初めて課税をすることができるのです。
しかし、上納金の場合、当然のごとく領収書は発行されません。誰が誰からどのくらいのお金を受け取ったのかということは、なかなか把握できないのです。税務当局は、そこまで調べない限りは、暴力団の上納金に課税をすることはできないのです。
が、マイナンバー制が導入されれば、お金の流れや溜まった場所が見えてくるので、誰がどの程度の収入を得ているのかがわかりやすくなります。そうなると、犯罪の証拠にもなるし、課税もやりやすくなるのです。
もしかしたら、マイナンバー制で一番、戦々恐々としているのは、暴力団関係者かもしれません。
自分の資産を守る本当の方法とは?
国税や財務省の官僚たちも、「富裕層の税金が安い」「今の日本の税制が不公平」ということは、わかっていることです。
そして、それを良しとしているわけではありません。
多くの官僚たちは、どうにかして富裕層の課税を強化したいと考えています。
が、政治がらみのいろんな事情で、これまで逆のことをせざるを得なかったのです。
この20年間、所得税や相続税の最高税率は大幅に下げられてきました。それが格差社会の一因ともなっています。
それは、財務官僚たちにとっても、決してすっきりしたものではなかったのです。
彼らも本音を言えば、富裕層からもっと税金を取るべきと思っているのです。
富裕層の課税を強化する場合に、もっとも重要なことは、彼らの収入や資産をきっちり把握することです。税金を課すにはそれが一番、重要なことなのです。
しかし、富裕層の収入や資産というのは、複雑に多岐にわたっていることが多いのです。複数の会社から報酬を得ていたり、様々なところに投資を行ったり、不動産収入があったりします。
それを一つ一つ確認するには大変な作業を要します。現行では、それを完全にやり遂げるのは不可能なのです。
そこで、マイナンバー制を導入しようということになったのです。
少子高齢化社会を迎え、我々の経済生活はますます苦しくなってきます。
我々は、自分の資産を守らなくてはなりません。
そのためには、冷静で正確な情報分析が必要です。
マイナンバー制も冷静に分析すれば、決して悪いものではありません。なぜなら、マイナンバー制でダメージを受けるのは、これまで所得や資産を隠すことが出来ていた富裕層だからです。
我々は、所得や資産を隠すことはできず、税金をきっちりかけられてきました。我々の税金をこれ以上、増やさないためには、富裕層にしっかり税金を払ってもらうしかありません。そのために、マイナンバー制度が必要なわけです。
拙著『税務署員がこっそり教えるお金の裏ワザ』でも述べたように、自分の資産を守り、快適な生活を維持していくためには、正確な情報が不可欠だといえます。
老後の資産を蓄えるにはどうすればいいか、年金の不足分を補うにはどうすればいいか。マイナンバー制の導入は、それを考えるのに、ちょうどいい機会なのかもしれません。