ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「人間交差点」 矢島正雄/弘兼憲史

2008-10-15 12:11:15 | 
この作者「部長 島耕作」以来、なんとなく鼻に付くので、あまり積極的に取り上げたくないが、名作は名作として評価したい。

多分、漫画雑誌ビックコミックだと思う。そこで初めて読んだ弘兼憲史の漫画は、絵柄は明確だったが、イマイチ華がない画風だった。ただ、地味な人物を魅力的に描くのが上手いと思っていた。80年代当初は地味ながら、実力派の漫画家だと評価していた。

で、大ヒット作である「課長 島耕作」である。当初は地味なストーリーだった。冷え切った家庭に、厳しい職場環境。必死でもがく中間管理職の悪戦奮闘ぶりを、興味深く読んでいた。が、バブル景気にのって、段々と派手になってきた。その活躍と出世ぶりは爽快だったが、ちと作者の増長振りが不快に思えて、途中から流し読みになっていた。

たしか、島耕作は現在は役員になっていると思うが、もう読んでいない。読む気が失せているからだ。

それでも、初期の頃の名作は、やはりしっかりと取り上げたいと思う。表題の作は短編集で久しぶりに再読してみたが、いい作品が揃っている。人間ドラマとして、時代を超えて感動できる。

とりわけ表題の作は、TVでは脚本家として知られる矢島正雄の原作だけに、よく出来たストーリーに感心する。絵柄も現在より地味だが、しっかりと書き込まれていると思う。

くたびれた背広の皺とか、中年売春婦のたるんだ肉体とか、あまり注目されない姿をしっかりと描いている。このリアリティが、よく出来た物語に迫真性を持たせる。

決して表舞台の主役に躍り出ることはない、市井の人々を主人公に据えて描く人間ドラマ。かっこいい主人公は一人もいない。どん臭く、泥まみれ埃まみれで、不器用ながら必死に生きていく姿を見事に輝かしている。

やっぱり名作だと思う。短編集なので、短時間で気軽に読めると思います。未読でしたら是非どうぞ。
コメント (6)
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