ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「薔薇の渇き」 ホイットリー・ストリーバー

2008-10-30 12:18:23 | 
永久に生きたいか。

私は真っ平だ。死にそうな目に何度か遇い、それでも生き延びてきたが、だからといって永遠に生きたいとは思わない。

第一、どのような状態で生きているかが重要な問題となる。溢れる若さと未熟さが同居する20代か、あるいは落ち着きを得た一方で、情熱をなくした30代か。見識の充実する反面、体力の衰えを痛感する40代も悪くはない。

しかし間違っても、ベッドに横たわったままでの永遠の人生なんか欲しくない。

もう一つ大切な問題がある。人は一人では生きていけない。たった一人で永遠の人生を歩むなんて、真っ平御免だ。親が先に死ぬのはまだしも、子供が老衰していくのを眺める永遠の人生は拷問に等しい。かつては美しかった愛する人が、年老いていくのに、自分は変らぬままでいることが、幸せな訳がない。

さりとて、人類全体が永遠の命を得たならば、地上に人が溢れるだろう。過剰な人口は、必然的に争いを巻き起こし、生き残りをかけた醜い争いが恒常化すると思う。

多分、人間の精神構造は永遠に生きることに耐えられないと思う。

表題の本は、たった一人生き残ってしまった人類とは異なる種の人型生命体が主人公だ。古来より吸血鬼(作品中、この言葉は使われない)と呼ばれた種族だが、人間を捕食するがゆえに迫害され、唯一の生き残りとなってしまったがゆえに、孤独にさい悩まされる。

なにせ昼間でも歩き回り、十字架も大蒜も怖がらない。人間の上位種ゆえに、はるかに優れた知能と身体能力をもつが、それでも孤独には耐えられない。だから選んで仲間を創ってきたが、やはり永遠には生きてくれない。

そんな主人公が選んだ、次なる仲間は優れた医学者である女性医師。快楽を武器とし、飢餓感を使って人間を貶める手口を駆使して、女性医師を引き釣りこもうとするおぞましき執念。

ホラー小説では、巨躯巨体のモンスターや醜悪な怪物が登場することが常套手段だが、この作品のモンスターは、精神構造が怖い。究極的には自分しか愛せない怪物が、人間に愛を求めるおぞましさが印象的な作品でした。

なお、80年代に「ハンガー」というタイトルで映画化されたのですが、何故か翻訳されたのが2003年だった幻の作品でした。どうやら続編もある様子。次の末ヘ早めにして欲しいものです。
コメント (4)
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