ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ヒースロー空港でピカチュー

2011-04-15 15:19:00 | 旅行

子供の目がキラキラ輝くのが苦手だ。

あれはロンドン郊外のヒースロー空港でのことであった。目的地のブリュッセルには、日本からの直行便がないため、ここヒースローで乗り換える訳だが、4時間も空いてしまった。

いくら広くて快適なヒースロー空港といえども、トランジットで4時間は辛い。中途半端すぎるのだ。さて、どうする?

待合室の長いすに寝そべり、少し眠ろうかと思ったが、子供たちの声がうるさくて眠れやしない。ふと見ると、私の手前で金髪の男の子が、ピカチューのヌイグルミと一人遊びをしている。こんなところで、日本のポケモンに出会うとは思わなかった。

暇を持て余した私は、手元にあったレポート用紙にボールペンでピカチューの絵を描いてみた。単なる時間つぶしではあるが、単純に描いたのでは面白くないので、ピカチューが青筋たてて怒っている顔にしてみた。

別に難しくない。額に青筋描いて、目を丸から三角に変えればいいだけだ。我ながら、良く描けた。ちょっと反応が見てみたくなって、Hey BOYと声をかけて、その金髪の男の子に渡してみた。

すると、その男の子、しばし硬直して絵を見つめていた。次の瞬間、なにやら叫ぶと、走り去っていく。なんなんだ?

どうやらお母さんの元に駆け寄り、こちらを指差しながら、なにやら喋っている。ありゃりゃ・・・お母さんと思しき人が軽く会釈をよこしたので、こちらも軽く頭を下げる。

さて、一休みするかと思いきや、周りを見渡すと、5人ほどの子供たちが私を囲んで、紙を差し出してきた。おいおい、これに描けっていうのかい。

断ろうかと思ったが、どの子も目をキラキラさせて見つめてきやがる。ハッ~とため息一つついて、ボールペンを手に取った。まァ、5枚くらいなら描いてやるか。

ところがだ、気がつくと子供たちが集まってきている。どうみても15人はいるぞ。なかにはビカチュー以外のポケモンを描いてとねだって(どうも、そう言っているとしか思えない)くる子もいる。青い雀みたいな奴とか、緑のトカゲとか、わけ分らん。

勘違いされると困るから、はっきり言えば、私の描いたポケモンなんて、悪戯描きレベルに過ぎない。ただ、ちょっと手を加えて遊び心をだしただけだ。なんで、こんな絵が欲しいのか?

それから一時間弱、私はポケモンの絵を描き続ける羽目に陥った。後になって気がついたのだが、どうやら、一族で旅行に行こうとしている家族グループであったらしい。

飽きっぽい子供たちが、やがてボール遊びに夢中になって、ようやく私は解放された。すると、私の目の前に、紅茶の入った紙コップと、サンドイッチが差し出された。

先ほどのお母さんと、初老の男性だった。お礼のつもりらしい。断るのもなんなので、ありがたく受け取っておく。私が英語を苦手だと分ると、ゆっくりと話してくれたので、おおまかに意味は伝わってきた。

どうも私を任天堂の社員かなにかだと思ったらしい。こちらが、ただ絵が好きなだけだと答えると、大げさに驚いていた。ただの素人絵に過ぎないと思うのだが、悪い気はしない。

どうもスコットランドから来たらしい。どうりで癖の強い英語だと思った。やがてフライトを案内するアナウンスと共に、初老の男性が口笛を吹いて子供たちを集めて、立ち去っていった。

よくまあ、あれだけの子供たちを統率できるものだと感心した。立ち去り際に、数人の子供たちが、私の描いた絵を嬉しそうに頭上に上げて、手を振って挨拶してくれた。

こんな出会いと別れも悪くない。でも、まあ、ポケモンの絵を描くのは当分勘弁である。あんな期待を込められた瞳で見つめられたら、断るに断れないぞ。

コメント (3)
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