ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

シナリオ・ライター

2011-04-22 12:20:00 | 日記

どちらかといえば、楽天家な私がストレス性の胃潰瘍になったのは、高校一年の秋だった。

原因は文化祭である。私のクラスは、何時の間にやら劇をやることとなっていた。中学時代の大半を落ちこぼれで過ごした私は、高校では一転して優等生を目指していた。

当然にタバコもやらなきゃ、パチンコもやらない。酒でさえほとんど飲まない堅物の高校生だった。当時既に活字中毒に陥っていた私は、休み時間も読書にあてこむ、本当に真面目な高校生であった。

そのことが周囲からどう評価されたのか分らないが、気がついたらシナリオライターを任されていた。つまり脚本家である。

さて困った。脚本はおろか、舞台さえまともに知らない芸能音痴の私である。慌てて戯曲を何冊か読み、急遽シナリオを書き上げてみたまではいい。

問題はその後だった。当初、この芝居をやることに熱心だった連中が、降りてしまったのだ。原因は彼らの加熱した熱心さにあった。

クラスの大半の連中は、別に劇をやりたかったわけでもなく、一部熱心に推し進めていた連中の先走りであった。その連中と、クラスの主だった奴らが揉めた。

このクラスは、目立つが少数の運動部系の奴らと、大人しい帰宅部系の奴らが大半で、劇を推していた連中は数人の文化部系であった。

劇の練習よりも、部活を優先する運動部系が最初に反発した。その反発に怖気づいた帰宅部系が一歩退いた。空回りに挫折感を強く抱いた文化系の連中が、真っ先に降りてしまった。

さて、困った。なにやら話し合いがもたれたようだが、気がついたら私がまとめ役を押し付けられていた。最初に反発したサッカー部のSが、応援するからやってくれよと頼むので、仕方なくやる羽目に陥った。

白状すると、かなり戸惑った。転校が多くて、孤立しがちな小学校時代はもちろん、落ちこぼれから真面目っ子への転進を図った中学時代、いずれもこのようなまとめ役を引き受けたことはない。

ただ、根が楽天的な私である。とりあえず、やってみる。

反発した運動部系の連中は、事前に話を通しておけば、それなりに協力してくれる。これはこれで助かった。また、降りてしまった文化部系の連中も、引け目からか、黙って協力してくれた。ここまではいい。

私が驚いたのは、それまで大人しく黙っていた帰宅部系の反応だった。私は根回しを重視していたので、なるべく一人ひとりの話を聞くことに重点を置いていた。クラスの話し合いの場では沈黙していたくせに、いざ個別に話を聞くと、呆れるくらいに文句が多い。

いや、文句というには真面目すぎる建設的な意見もあり、私も無視できなくなっていた。なにせ、この大人しかったはずの帰宅部系が、一番人数が多く、しかも個別には口うるさい。

文化祭当日までの二週間あまり。私は彼らの愚痴の聞き役から、意見の取りまとめ、根回しに奔走させられた。その頃だろう、朝起きるとお腹のあたりに鈍痛を感じることがあった。

その鈍痛は、夕方にはキリキリと痛みを伴い私を苦しめた。終いには少量の血を吐く始末である。どうも、これは胃をやられたらしい。医者からは、ストレス性胃潰瘍だと言われる始末である。

ところが妙なことに、私が吐血したあたりから、劇の練習は急激に進み、私が不在でもしっかりと進んでいた。どうも、私が七転八倒している様に気まずくなったらしい。

おかげで、文化祭では、ほぼ滞りなく劇を開催することが出来た。もっとも私はといえば、初日の開演を見届けると、後は皆に任せてしまった。

もう二度とクラスのまとめ役なんぞ引き受けるものかと、固く胸に誓ったことは言うまでも無い。ただ、今まで知らなかった自分の一面や、大人しいと思い込んでいた帰宅部の本音が分ったのは興味深かった。

どうも私は人間関係のストレスに、あまり強くないらしい。そして、日頃黙っている大人しい連中が、意外なほどに鬱憤を溜め込んでいることを知った。正直、文句があるなら、殴りあっていた中学時代のほうが、よっぽどマシだった。

つくづく、私はリーダーには不向きだと実感した。真面目な高校生を演じるのは、思ったよりも大変みたいだ。

翌年、クラス替えしてから私は一部真面目であることを止めた。勉強だけは人一倍やっていたが、塾もなく、部活もない日の放課後は、仲間とパチンコで遊び、稼いだら居酒屋で一杯やる。制服がない私服の学校であるが故の特権である。

そして真面目なだけの帰宅部の連中との付き合いは減らし、ちょっとぐらい規則を破っても楽しめる連中と付き合うようになった。おかげで、高校生らしからぬ高校時代を楽しむことが出来た。

この遊び仲間とは、今でも付き合いがあるが、真面目なだけの帰宅部連中とは疎遠になってしまった。どうも、私の人生、真面目なだけな生き方は似合わないらしい。

コメント (4)
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