信賞必罰。
とても大事なことだと思う。批難するのは容易い。一方、褒めるのは難しい。だから褒める時は、意識してやらないと不十分に終わる。せっかく褒めたのに、その褒め方が不十分だと、却って不満が双方に残る。
だから、褒める時は正々堂々、臆面もなく、ぬけぬけとやるくらいが丁度いい。私のような口下手な人間は、特にそうだと思っている。
一方、批難するのに努力はいらない。勝手にペラペラと口から不満が迸る。だからこそ、批難するときは細心の注意を払う必要がある。批難しすぎて、却って批難が反発を招くことが多いからだ。
そこで、今回の東日本大震災と、その余波である福島原発事故に関する東京電力について考えてみた。
まず、誰がなんと言おうと今回の地震が未曾有の規模であり、これほどの自然災害に対して万全の対応なんぞ、なんびとたりとも出来る訳がない。その点は認めねばなるまい。
これだけの大震災である以上、電気、ガス、水道などのライフラインに被害が及ぶのは当然だろう。地域差はかなりあったと思うが、震度5以上であった東京では、停電はほぼ無かった。少なくても千代田区、中央区、港区など都心では、ライフラインはほぼ万全の状態であったと思う。
もちろん、地域によってはかなり隔たりがあり、私の自宅なんぞ4日間水に不自由したし、電車の運行も大幅に減ったが、それでも大被害とは程遠い。
電気設備は、地震に対してはかなり準備がしてあったと判じてもイイと思う。ただし、津波に対しての備えは十分とはいえなかったのも事実だ。
実際、福島原発だって非常用の発電設備が冠水しなければ、あれほどの被害は生じなかったかもしれない。福島原発は、アメリカのGE製であり、アメリカのコンサル会社の指示に従い40年以上前に建築されたものだ。津波の被害をどこまで想定していたのか不明だが、どうみても十分であったとは言いがたい。
しかし、津波に対する堤防などの対策は、東北地方はどこも似たり寄ったりであったのが現実だろう。東北地方は過去何度となく津波に襲われており、決して無為無策であった訳ではない。
しかし、高さが14メートルに達する津波までは想定していなかった。これを人災だとして批難するのは、いかがなものかと思う。
ただし、その後の対応がまずかった。特に東京電力の経営者たちの対応は、あまりに酷い。東京電力のドンたる会長の不在だけでなく、社長までもが本社に不在であり、帰京が送れて事後対応が大幅に遅れた。
止む無く現場の人間が、不慣れなマスコミ対応をせざる得ず、マスコミの不信を招いた。これは間違いなく東京電力のミスだ。困ったことに、被災者並に動揺した菅総理を始めとした民主党政権が、現場に余計な差し出口を挟み、ますます混乱する始末。
災害の混乱時に、肝心の東京電力の経営陣が不在であったため、現場の混乱に拍車をかけた。これは断固追求されるべき経営責任だと思う。
言うまでもないが、東京電力は超優良企業である。豊富な資金力や安定した財務基盤などは、破綻したJALなどとは比較にならない。当然に社員はエリート揃い。
現在、批難を浴びている清水社長なんざ、典型的な東電のエリート社員だった。だが、現在の清水社長にその面影は無い。平時であるならば、優れた組織管理者であったのだと思うが、緊急時にはオロオロするばかりの温室育ちのひ弱な花に過ぎないことが露呈してしまった。
だが、これは清水社長に限らないはずだ。日本のエリート教育は、最終目標を霞ヶ関に置いていた。つまり優秀な官僚を育てる教育こそが、エリート教育の実態であった。
実際、これはこれで優秀な官僚を数多く育成してきた実績を持つ。だが、官僚というものは、平時の管理者であり、緊急時とりわけ前例がないような事態にぶつかると満足な対応が出来ない事が多い。
前例、もしくは模範をしめしてやれば、彼らはたちどころに優秀さを取り戻す。本来、それは政治を牛耳る最高権力者たる首相の役割であった。その首相が、清水社長以上にアタフタしており、挙句に怒鳴りだし、周囲に人を近づけさせない愚か者であった。
かくして、超優良企業であったはずの東京電力は醜態をさらす羽目に陥った。もし、早期に原発の廃棄を覚悟して、海水注入の判断を下していたのなら、もう少し被害は小さかったかもしれない。つくづく悔やまれてならない。
一方、今回の原発事故で最も活躍したのは、エリートでもなんでもない現場の職員たちであったことは、今や世界中が知っている。被爆の恐怖に怯えながらも、なんとかしようと奮闘する彼らこそが英雄であった。
今はまだ被害が明らかではないが、あのレベルの放射線の中で長時間作業している以上、相当な被爆を負ったと思われる。嫌な予想だが、この先被爆症によるダメージが彼ら現場の作業員や自衛隊、消防隊などに襲い鰍ゥる可能性は高い。
快適な東京の本社ビルにこもって、無為無策の無能ぶりをさらしたエリートたちが罰せられるのは当然だが、この被爆によるダメージを負った人々に対して、東京電力はいかに報いるのか?
これは長い目をもって監視する必要があると思う。嫌な予想だが、エリートは得てして、この類の英雄を冷遇しがちだからだ。世間の目から隠して、世間が忘れた頃を見計らって切り捨てる。
やりかねませんよ、あの方々たちはね。