ヌマンタの書斎

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はずれ馬券訴訟

2015-02-27 12:05:00 | 経済・金融・税制

マスコミの報道が不親切に過ぎる。

先だって最高裁で、競馬のはずれ馬券の経費性を争った訴訟で、事実上国側敗訴の判決が出た。マスコミの報道では、最高裁ははずれ馬券を経費とすることを認めたかのように読めてしまう。

マスコミの不勉強は毎度のことだが、これはちょっとヒドイ。判決を読んでいるのかどうかも疑問だが、その内容が分かっていないようだ。

公営競馬における当り馬券の課税は、通常は以下の通りとなる。

まず、当たり馬券による所得は、所得税法基本通達34-1、34-2によると一時所得と例示されている。

この場合の所得の計算方法は、収入金額(当り馬券の払い戻し金額)から、その収入を得るために直接支出した金額(当り馬券の購入金額)を引き、そこから更に50万円を控除し、残額の二分の一が課税所得とされる。

これはかなりの優遇規定である。まず儲けても50万円(年間)まで非課税だし、課税されるのも半分である。これは経常的な所得ではなく、臨時的な性格の所得であることを配慮しての課税方法だとされている。

だが、その一方で経費とされるのは「その収入を得るために直接支出した金額」とされている。つまり当り馬券の購入金額であり、はずれた馬券の購入金額はこのなかには含まれない。

今回の裁判で、原告となった納税者はコンピューターソフトで、当たり馬券を予測するものを自ら作成し、毎年数千万円から数億円の馬券収入を得ていた。これはこれで凄いが、問題は所得としての申告内容である。

実はこの当り馬券への課税問題は全国で複数あるようで、その内容は以下の3パターンとされる。

① 税務署から指導されての申告(当然一時所得)したケース。
② 自主的に雑所得として申告したケース
③ まったくの無申告で、一時所得として申告させられたケース

①と③については、はずれ馬券は当初から経費とされていない。また②の場合、税務署から一時所得として修正するようにと言われて、訴訟に至ったようだ。

裁判で問題となったのは、一時所得ではなく、雑所得として申告することの妥当性である。

雑所得の場合、次のように所得は計算される。収入金額(当り馬券の払い戻し金額)から必要経費(その年の全ての馬券購入金額)を引いて雑所得となる。つまり、はずれた馬券の購入金額も必要経費に算入される。

訴訟をするに至った納税者は、一時所得では所得が大きすぎて税額が払えないと主張している。私からすると、よくぞそこまで稼いだなというのが率直な感想である。普通は、当たり馬券の申告は、一時所得のほうが圧涛Iに税額が少なく出るのが通例だった。

だから、数億稼ぐような納税者の存在は、税務上予測されていなかった特異なケースでもある。もっとも、この納税者は、年により変動はかなりあるが、数千万円馬券を購入し、それを多少上回る程度の稼ぎであり、当たった馬券だけを取り上げられれば、所得は巨額になってしまう。

実際には数億円、外れ馬券を購入しており、それを勘案せずに課税されるのは納得できないという気持ちが、今回の訴訟に至る強い動機であるようだ。現実問題、手持ちの資金は億に届かない数字で、一時所得で税額算定されても、とても払えないのが実情だ。

しかし、税務署側からすれば上級職からの指示でもある通達に、当たり馬券の払い戻し金の課税は、一時所得と明示されている以上、納税者の財布の事情に左右されるわけにはいかない。これは、これで一理ある。

そこで改めて雑所得とは何かが問題となる。これは給与、退職、譲渡、不動産、事業、山林、一時所得などに該当しない所得とされる。はたして、当り馬券による所得は、通達通りに一時所得なのか、それとも雑所得なのか。それが争点でもあった裁判である。

で、結論からすると最高裁は、今回の訴訟については事実上雑所得として捉えて、結果として外れ馬券の購入価格を必要経費とした。ただ、マスコミ報道は、このあたりを分かっていない。

実は当り馬券による所得は、もう一つ可能性があった。それが事業所得である。しかし、過去の判例などから、日本の司法当局は先物取引など投機的な所得を事業所得とは決してみなさない。今回の判決でも、先物同様に事業所得とは捉えていない。

事業所得とは、要するに商売であり、反復継続して行われる商行為による所得で、生計が成り立つ規模であることとされている。しかし、先物取引とか今回の競馬の当り馬券のような投機的あるいは不労所得は、それに該当しないとされている。

今回の訴訟では、納税者は反復継続して競馬に投資しており、理論的には事業所得の可能性もあったが、税務上は認められない。さりとて一時所得とみるには無理がある。だからこその雑所得だと最高裁は判断したのだろう。

だからこそ、今回のマスコミ報道には問題がある。この報道を読んで、外れ馬券の購入金額は経費だと思い込んでもらったら大きな間違いだ。あくまで雑所得としてに足り得る規模で競馬の当り馬券収入がある方だけが、外れ馬券を経費に出来る。

つまり、たまにしか競馬をやらない方は、従来とおりの一時所得としての申告となる。つまり外れ馬券は経費にならない。このことに触れていない報道があまりに多すぎる。

税務は難解なので記者が間違えるのは仕方ないが、せめて専門家に問い合わせて概要を確認してから報道して欲しいものです。

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