忘れられない憎しみは、誰にだってあるのかもしれない。
インドにある、とある農村をゾウが襲ったとのニュースを読んだ。家屋を破壊し、車を押し潰し、暴れ放題であったという。あの巨体で暴れられたら、武器を持たぬ人間に止める術はない。
実を云えば、ゾウが人間を襲う事件は、アフリカで多発している。インドゾウよりも更に巨体のアフリカゾウが、アフリカ各地の農村を襲い、観光ツアーのバスを襲い、走行中の車さえ襲うという。
原因を調べると、どうも復讐の感が強いという。ゾウは密漁の対象となることが多い。多くは象牙目当てであるが、時には農作物に害を与えるゾウを駆除することによる密漁もある。
現地の動物学者や、ツアーガイドなどによると、人間を襲うゾウは、幼い時に、母親を殺された子象の可能性が高いという。俄かには信じがたいが、ゾウの脳における記憶を司る海馬の割合は大きく、記憶力が高い可能性は、かねてより指摘されていた。
長年、ゾウを観察してきた人たちの話では、人間に母ゾウを殺され、その後人間とは接せずに育ったゾウは、人に対する憎しみを忘れず、大人に成長してから、人を襲うようになる。
私が見た映像は、ディスカバリーチャンネルでのものだが、観光ガイドと撮影クルーの乗ったジープを追いかけてくるゾウの迫力は、凄いものがあった。迫力ある咆哮もさることながら、地響きを立てて疾駆する巨体は、十二分に人を殺傷する能力があると良く分かるものであった。
アフリカ大陸では、しばしば人が野生動物に襲われる。最も死傷率が高いのはカバで、プロのガイドでさえ油断すると殺されるという。またハンターに狙われたケープバッファローも、しばしばハンターを逆に追いかけて殺してしまうことで知られている。
だが、カバは縄張りを守るためであり、ケープバッファローは自らの生死を賭けた戦いである。これは他の動物でもありうることだと思う。ところが、ゾウの復讐は、ほとんど聞いたことがない。
人間を嫌う、もしくは餌として狙う動物はいる。しかし、自身が直接、被害を受けた訳でなく、十数年前の記憶を根拠に人間を襲う動物を私は知らない。チンパンジーやイルカ、シャチなども知能は高いが、親を殺されたことを理由にした復讐の話は聞いたことがない。
浮「話だと思う。人間の増長に対する神の、あるいは自然の警告なのかと、思わず勘繰ってしまったニュースでした。