やはり人間って、けっこう野蛮なのだと思う。
人間には、喜んだり、哀しんだり、驚いたりと豊かな感受性がある。そんな人間が、なにに対して一番興奮するかで、その本性の一端が分かる。
認めたがらない人は少なくないだろうが、人は暴力に対しても、相当に興奮する。観ているだけでも十分興奮することは、ボクシングやプロレスなどの興業を見ていれば分かる。
そして否定したい人も多いと思うが、人は間違いなく暴力をふるう時にも興奮する。私は平和を愛する温和な一市民である。もう、かれこれ30年以上、他人に暴力をふるったことはない。
そんな私でも、憎い相手を殴る快感があることは、実体験から知っている。身体の内側から湧き上がる、奇妙な興奮に心を支配され、抑制が効かないぐらいに熱中して相手を殴る時、そこには獣じみた悦楽があることは覚えている。夢中になりすぎて、自らの拳を痛めていることさえ気が付けぬほどの興奮である。
実はもう一種類ある。相手にねじ伏せられ、馬乗りになられて、顔面をボコボコに殴られている時、なぜか一種の麻痺にも似た陶酔状態に陥っていることがある。
痛みで涙はボロボロ出ているし、鼻血が噴出して、咽喉に詰まって、息苦しい。顔がみるみる腫れ上がり、目がふさがるほどの打撃を受けているのに、なぜか身体が動かない。抵抗したいのに動けない。
これは冷静に考えれば、脳から痛みを緩和させる物質が放出されているだけで、身体が傷ついていることに変わりはない。ただ、妙な興奮状態は、ある種の快楽を伴っていたことは確かだと思う。
人間には、暴力に対して、ある種の悦楽を感じるような仕組みが組み込まれているのだと思う。もちろん個人差はあるだろうし、私にはそんなものはないと断言する人もいるだろう。
でも、私たち人類が、多くの生存競争を生き抜いてこれたのは、この暴力性に優れていたからである。過去の亜人種ともいえる猿人たちにも、生き残って進化する機会はあった。しかし、もっとも戦闘技術に長けた現生人類こそが、その戦いを生き抜き、生き残った。これもまた事実である。
如何に否定しようと、我々人類には、暴力を肯定する仕組みがある。だからこそ、格闘技に興奮する。
そんな暴力性を描いて絶品なのが、表題の漫画です。裏サンデーに連載されてたマイナーな作品ながら、いつのまにやらメジャーな人気を博した逸品です。
登場人物たちは、格闘技の試合に登場し、相争う企業の代理人として戦い、勝った側の企業が経済的な権益を手にする。それが江戸時代から続く拳願試合。
その試合に登場する格闘者たちは、いずれも戦うことに魅せられ、暴力に陶酔し、破壊と鍛錬に明け暮れる。今、一番熱いと云われる格闘漫画です。興味がありましたら、是非どうぞ。