ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ウォータースライドをのぼれ ドン・ウィンズロウ

2016-02-26 14:55:00 | 

本来、滑るためのもので、上っちゃいけないのがウォータースライドだ。

ヒネクレ者の私は子供の頃、このウォータースライドに登りたくてしかたなかった。でも、大概監視員がいて、「そこの子、登っちゃだめだよ」と注意されるので、仕方なく、スゴスゴと引き下がっていた。

その夢が叶ったのは、十代後半で、沢登をするようになってからだ。夏場の渓流で、緩やかな傾斜の滝を、草鞋の履いた足で、慎重に登っていくのは、実に爽快であった。

いや、爽快なのは、夏の暑さを吹き飛ばす水流のシャワーあってこそであり、実際には落ちてくる水流は結構な負担であり、足場を慎重に定めないと簡単に落下してしまう。

滝を数本遡ると、疲労が色濃く残るのは確かで、楽しいけど、相当な重労働であることが良く分かった。でも、滝を回避することはせず、きついと分かっていても、滝を遡ることを選択していたのが、若き日の私であった。

なぜかと問われると、困ってしまう。特に明白な理由があったとは思えないが、楽して遡行するよりも、より困難なルートを選ぶことに、自虐めいた喜びを感じていたのは確かだ。

そして、滝の激流に押し流されぬよう筋肉を張りつめ、落ちる恐怖に怯えつつも登ろうとする自分に、内心呆れていたのも、また事実であった。登り切った後の充実感は、他の何事にも代えがたい喜びであったが、失敗して滝壺に落ちて後悔したことも再三あった。でも、決して止めることはなかったと思う。

ところで、表題の作品は、ストリート・キッズ(路上の浮浪児)上がりの探偵である、ニール・シリーズの第四弾である。ニールに私が惹かれる理由は、彼が敢えて困難な道を選んで進んでいくところにある。

頭の回転が速く、機敏で、目先の効くニールではあるが、安易な道を選ばず、厳しい道程を選択する。もっと楽に、お手軽にやる方法もあるだろうが、彼は自らに修行を課すかの如く、より困難な手段を選らんでしまう。

かくて、彼はウォータースライドを遡る羽目に陥る訳である。その理由を知りたかったら、本書を読むほかない。ここ暫く多忙な私ではあるが、電車の中の読書で、あっという間に読みきれた快作です。機会がありましたら、是非どうぞ。

コメント (4)
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