ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

曖昧なほうが良かった

2017-12-15 15:21:00 | 社会・政治・一般

もしかしたらトランプ大統領は、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。

イスラエルの首都をエルサレムだと宣したことで、世界中のイスラムを敵に回してしまった。しかし、それは既成の事実を公式に承認しただけであり、エルサレムにアメリカ軍を派遣した訳でもないし、どこぞのイスラム国家に爆弾を落とした訳ではない。

だが、エルサレムはただの古代都市ではない。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という現代社会に広く普及している宗教の聖地である。

宗教の恐ろしいところは、論理や道理ではなく、信念に支えられていることだ。神の正義を土台にしているだけに、神の意向に反するものは、すべて悪である。悪との妥協はありえず、徹底的に悪を滅ぼすことこそ、神の恩寵だと信じている。

人類は生まれて文明を築いて以来、最悪の戦争が宗教戦争である。

だからこそ、近代は神の権威を政治から遠ざけた。この英断により、欧州を悩ませた宗教戦争に終止符を打った。だが、その前に信仰の自由を求めて新大陸に渡った人たちが、原住民を排除して建国したのがアメリカだ。

自由の国、アメリカというが、正確に云うならば信仰の自由の国、アメリカである。もっと精密に言ってしまえば、キリスト教内における信仰の自由であった。プロテスタントたちが、自らの信仰の自由を求めて作った国がアメリカである。

もっとも表向きは、自由と平等を謳ったが故に、新教徒だけでなく、カトリックの入植者も認めざるを得なかった。プロテスタントの為の自由であったのだが、いつのまにやら民主主義に基づく自由と平等が表看板となった国、それがアメリカである。

アメリカの本質の一つは、キリスト教原理主義である。

ウソだと思うのならば、過去のアメリカ新大統領の就任式を観てみることだ。選挙で選ばれた大統領は、皆必ず聖書を胸に就任している。この先、女性大統領やラテン系の大統領が誕生することはあれども、非キリスト教徒の大統領が就任することはないだろうと思う。

そう考えれば、アメリカがイスラムと対立するのは必然であり、当然でもある。

だが、歴代の大統領は決してイスラエルの首都については、曖昧な態度に終始した。アメリカ社会におけるユダヤ人脈は、政界、財界だけでなく、広告業界、映画業界、TV業界などにも広く深く根を張っている。それでも、中東和平のために、その仲介者としての立場を守るために、敢えてユダヤ人社会の要望に応じなかった。

アメリカの後見なしに、イスラエルという国は存続しえない。だからこそ、ユダヤ人はアメリカとの結びつきを深めてきた。マフィアを攻撃した大統領はいても、ユダヤ人社会を攻撃した大統領は居ない。それがアメリカだ。

しかし、現実に国際社会を鑑みれば、世界人口の最大多数派がイスラムであることは厳然たる事実だ。石油の過半を握るのも、イスラム国家であることも、無視できない現実である。

だからこそ、エルサレムではなく、テルアビブに大使館を置いてきた。あくまでイスラエルの首都はテルアビブであるとみなしてきた。

それでも歴代のアメリカ大統領は、あくまでイスラエルの首都はテルアビブだとしてきた。それは中東和平の為の苦渋の判断であったはずだ。

そこに登場したトランプ大統領は、遂にイスラエルの首都はエルサレムだと公言してしまった。事実を追認しただけだとは思うが、「王様の耳はロバの耳」と言ったに等しい行為である。

イソップ童話では、王様の目が覚めることとなるが、現代社会ではそうはいかない。

アメリカがここまで露骨にイスラムの面子を潰した以上、そこには底知れぬ憎悪がイスラム社会に生まれることは避けられない。

それは今更だと思う人も多かろうと思うが、宗教上の面子を潰したことは、根が深い憎悪となる。これは浮「。

私はそう遠からぬ未来において、中東に強力な反米国家が生まれるのではないかと予測している。その本拠地はサウジアラビアではないかと思う。これまで一世紀以上にわたり、アメリカと親密な関係にあったサウジである。

同時にアルカイーダのヴィン・ラヴィンの発祥の地でもある。サウジアラビアの皇太子はイスラム社会の盟主の座を欲していると思える。これまでサウジは石油輸出のプライスリーダーであったことはあっても、政治的な地位はエジプトやイラン、トルコに遠く及ばないものであった。

当然である。サウジアラビアとはサウード家のアラビアに過ぎず、さして伝統を持たぬ地方王家であったからだ。しかし、生まれた時から王侯貴族の生活に染まったサウード王子は我こそがイスラムの盟主たるべしとの意識が強いらしい。

未だ解決していないカタールへの経済封鎖も、その意識の表れであるようで、かなり剛直な性格であるらしい。叔父や兄弟らを不正疑惑で逮捕したりと、サウジ王家は大騒ぎ。王たる父親の影も見えないあたりが、なんとなく不気味ではある。

しかしながら、いくら王子が粋がろうと、サウジがアメリカの軍事力の傘に隠れている事実は変わらない。これでは、決してイスラム社会の盟主には成りえない。

情報が漏れにくい国ではあるが、サウジ国民の反アメリカ感情はかなりのものであるらしい。それを王家が抑圧してきたのだが、今回のトランプのエルサレムの首都公認が誘い水となり、サウジの未来を大きく変える気がしてなりません。

これは怖いですよ。北の刈り上げデブ君とは財力も軍事力も桁外れ。21世紀の大きな火薬庫となりそうな気配、濃厚ではないかと思います。

コメント (2)
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