TVに向かって一人で文句を言うのは滑稽だ。
もっとも日頃は、ほとんどTVを観ない。だから久しぶりに知人宅で観ていて、ついつい我慢できずに「馬鹿か、このCMは!」と口に出してしまった。あぁ、恥ずかしい。
CMは商品を売るために作られているのだから、多少の誇張や、大げさな表現は許容できる。でも、これは如何なものか。
何かと云えば、土地がなくてもアパート経営は出来るって奴だ。見た事ある方も少なくないと思う。財産運用の一つとして、不動産賃貸は比較的手堅いものの一つだし、今の銀行金利を考えれば、利回りだって定期預金よりはずっと高い。
土地がなくても決して出来ない訳ではない。土地を買うのは大変だが、定期借地権を設定してその上にアパートを建てれば十分可能である。CMは決して嘘を流している訳ではない。
ただし、問題は多い。まず資金面だ。可能な限り手持ち資金でアパートを建てるべきで、銀行借入は出来るだけ避けるべきだ。金利負担は決して楽ではない。
また、どこにアパートを建てるかの、立地の問題は非常に重要だ。
少子化が進む日本では、この先アパートを借りる人が増える可能性は低い。高度成長時代とは状況が大きく違う。また住宅あまりは想像以上に進んでおり、空き家、空き室、空きテナントにあふれているのが実情で、これは今後も増えこそすれ、空き室問題が解消される可能性は極めて低い。よほど立地条件のいい場所でないと、アパートオーナーは空き室に悩むことになる。
もっとも、これは当然というか、常識の範囲の問題に過ぎない。私は怒りの声を上げたのは、別の問題があるからだ。
この賃貸経営を進める営業をしているのは、主に建設会社であり、それを銀行がサメ[トしているケースが多い。建築会社にとって、アパート建築は利益率が戸建の家よりも高く、その上オーナーが自ら住む訳ではないので、折衝も楽な仕事である。
一方、銀行は資金の借り手を求めているが、中小企業の事業資金などはリスクが高く応じたくない。その点、手堅い職に就いている給与所得者は、銀行にとって貸しやすい顧客である。
アパート経営を不安がる人には、家賃保証をちらつかせて安心させる。銀行は必ず担保や保証人を確保するから、アパートオーナーがアパート経営が失敗してもリスクは少ない。そして、建築会社は、アパートさえ建てさせてしまえば利益は確保できる。
そして、今流行の家賃保証だが、実はこれは不動産事業としては、非常に美味しい仕事である。アパート管理の手数料は4%から6%程度と比較的、安めに設定しておくのがコツだ。
新築のアパートならば、さほど努力しなくても部屋は埋まる。しかし、建物は経年劣化する。店子の入れ替わりには、必ず部屋を綺麗にしておく工事が必要となる。この工事の代金は、会社側で自由に設定できる。
普通のアパートオーナーならば、複数の業者に見積もりを出させて工事を発注する。しかし、家賃保証をしている場合、その工事費用はオーナーが受け取る家賃収入から天引きして支払う契約になっているので、業者からすると資金の回収は確実だし、なにより値段を好きに決められる。実に美味しい。
一応云っておくと、業者もそれほど暴利を貪っている訳ではない。ただ、これまでに数百件のアパートオーナーの確定申告を見てきた私からすると、オーナーの手許に残るお金はそれほど多くないと思っている。でも、銀行に定期預金として預けるよりはマシですけどね。
それと、これだけは銘記しておいて頂きたいのだが、老朽化したアパートは家賃も安くしないと部屋は埋まらないし、修繕も頻繁に必要となる。どんなアパートだって、必ず老朽化する。その時、家賃保証タイプのアパート経営は非常に辛い。
家賃保証といっても、経年劣化したアパートで、当初契約した通りの家賃の金額では保証できるはずがない。だから契約書には必ず、家賃の金額の見直しの条項が入っているはずだ。
つまり収入は減るし、支出(修繕)は増えるの二重苦の状態に陥る。しっかりと、修理のための預金を積み立ててあれば良いのだが、私が散見した限りでは、それをやっていたオーナーは少ない。
無理もないと思う。だって、アパート経営の初心者に、そこまで先読みすることは、かなり難しい。むしろ、俺様はアパートオーナー様だぜ!といい気になってお金を使い尽くしているケースさえある。
軽い気持ちでアパート経営に手を出すことはお薦めできませんね。