商業メディアというものは、耳目を惹きつけてこそ売れると考える。売ることが目的である以上、事実を過剰に歪めて報道することは珍しくない。
私はわりあいと、このNEWSWEEKという雑誌を高く評価している。日本のメディアとは異なる視点での報道を提供しているからだ。ただし、アメリカの大手雑誌であるから、ときおり妙な記事を書く。
特に日本語版は、ひどく偏向した記事を書くことがある。それでも「LIFE」や「NY TIMES」に比べればマシなのだが、注意して読まないと拙い記事も散見する。
先週号がそうであった。スマートフォンを取材の中心にしての記事なので、致し方ないことではあるが、その内容には首を傾げた。スマートフォンに限らず、パソコンなどは、今や組立業である。
様々な国の企業から部品をより集めて、消費者に売れるよう魅力的な製品を組み立てていくのが今の作り方である。だから商品の企画力が重要となる。市場の変化、消費者の嗜好の変化に素早く対応することも大切だ。
この点、日本の企業は大きく後れを取っているとの指摘はもっともだ。日本の大企業は、やたらと会議が多く、その意思決定には多大な時間がかかる。これが変化の激しいスマホ業界には評判が悪い。
日本ではアップル社が圧涛Iなシェアを誇るが、今や世界市場ではアップルの独占とはいいかねる。スマホで大きく躍進した韓国のサムソンやLGでさえ今や中国のスマホに圧倒されつつあるのが実情だ。
その中国では、小さな企業が創業精神にあふれた若きシナ人たちに率いられて、スマホ業界を席巻している。記事の「作らない製造業」との表現も、このあたりの実情を反映してのものだ。
もっとも、その組み合わせる部品の分野では、日本の企業の存在感は半端ではない。OSなどのソフトの分野でこそ遅れをとっているが、素材、素体、電子部品、そして製造機械では日本企業抜きでのスマホは難しい。
厭らしいのは、この記事の執筆者はそのあたりの裏事情を承知の上で、この記事を書いていると思われることだ。
私は日本企業が万全だとは思っていない。むしろ日本経済を支えてきた製造業は、今相当な危機的状況にあるとさえ思っている。でも、この記事で指摘されていることとは別の問題だと認識している。
最近、データー偽造等の問題が、日本を代表する大手企業において発覚して報道されている。一昨年のタカダの問題だって、未だ引きずっている有様である。
様々な要因があるので、とても一律に評価することは出来ないが、日本の製造業に危機が迫っていることは確かだと思う。バブル期の前後からだと思うが、日本社会に製造業を軽んじる論調があったように思う。
丁度、私が就職活動などをしていた頃なので、よく覚えているが、雰囲気として金融サービスを日本経済の筆頭に数えるかのような論調の文を読んだ記憶がある。事実、大学でも成績優秀な連中ほど銀行や証券会社などを志向していた。
それでも自動車会社や家電メーカーなどは健闘していたと思う。バブルが弾けても、しっかりとした物づくりの基本を守っていた企業は安泰だと思えた。ところが、足元から物づくりの基本が崩れてきた。
経営トップに、製造現場を知らない人間が付き、コストダウンなど無理な要求を現場に強要するようなケースが散見するようになった。これは以前からあるというか、良くある話ではあるが、現場の発言力が低下しているため、無理が通ってしまう。
バブル以前は、労働組合などが強力な発言力を持っていたが、それが経営に悪影響を与える場合もままあり、バブル崩壊を機に労働組合は骨抜きされてしまった。典型的なのは、日産であろう。外国人経営者の前に、労働組合は牙を抜かれ、雇用確保に追われてしまった。
嫌気が差した優秀な技術者が現場を去り、結果的に製造現場の能力が低下した。更に高齢化が、それに拍車を駆けた。守秘義務があるから具体的には書けないが、ある大手メーカーの工場で、排熱パイプが壊れて製造ラインが止まったことがあった。
以前ならば、古参の工員たちが手道具でもって自己流に修理して、何事もなくラインは復旧できた。しかし大卒のエリート社員には、そんな真似は出来ず、古参の工員は既に退職、または転職してしまって今はいない。
結果、下請けの吹けば飛ぶような零細工場の社長が呼ばれて、その故障を直している。その社長さん、最初は何で自分がと訝っていたが、今じゃ工場にトラブルがある度に呼ばれている。
かつて、修理をやっていた退職した古参の工員を呼べば済むことなのだが、リストラを言いだした工場長には出来ないらしい。かつて、出入りの下請けとして辛い立場にあることが多かった零細工場の社長は、あんな簡単な修理が出来ないなんて、どうしちゃったんだろうねと不思議がっている。
現在、若い人は工員になりたがらず、またその工員を大事にする気風も損なわれているのが、今の日本の製造現場の一面である。中高年ばかりが目立つ工場の技術者をみていると、私はとても不安に思わずにいられません。