20世紀に二回あった世界規模の戦争には、前兆というか、予備試験的な戦争が幾つかあった。
南北戦争、クリミア戦争、そして日ロ戦争である。この三つの戦争では近代兵器の試作品が多数投入された。鋼鉄製の砲身を持った巨大りゅう弾砲や、一基であるだけで戦線を維持できる重機関砲などの試作品が持ち込まれ、実戦で使用されてテストされた。
連発式の小銃や、鉄道軌道で動く列車砲、キャタピラーを装備した輸送車など二十世紀では当たり前となる兵器の大半が、この三つの戦争で試され、第一次世界大戦及び第二次世界大戦において、大量破壊兵器として活躍することになる。
武器というものは、いくら試作して演習場で使ってもなかなか真価は分からない。実戦に投入し、そこで初めて泥と埃にまみれ、兵士を大量に殺戮し、建物や要塞を破壊して、そこで初めて長所や短所が見つけられる。
今回のウクライナ戦争も、新型兵器の実験場となっていることは既に承知の方も多いと思う。ドローン兵器が本格的に運用された戦争であることはよく知られている。しかし、私の見たところ、これは表向けの軍事情報であり、ウクライナ戦争の真の主役は歩兵だと考えている。
歩兵が携行する対戦車ミサイルや対空ミサイルなどが一番戦火を上げているとの情報があり、私はこれは真実に近いと思う。最近、日本の防衛省は、戦闘ヘリコプターの採用を止めてしまうことを公表している。アパッチなどベトナム戦争から中東戦争まで活躍した実績ある戦闘ヘリを持つ自衛隊だが、今回のウクライナ戦争を見てその損失の多さから採用を諦めたと伝えられている。
もっともこれは表向きの情報で、実際には後継機と考えていた戦闘ヘリが、すでに陳腐化して生産を止めるので、仕方なく断念したのが実際の理由らしい。今も昔も日本の軍務官僚は、情報判断があまり上手でない。
実際、日露戦争で重機関砲により若き日本兵を無駄に死なせたのを知りつつ、従来の小口径の単発銃に固執し、ロシアに勝てたことを精神論で取り繕ったのが日本の参謀本部である。まぁ本音は、高額な銃弾を雨あられと浪費する経済的負担を嫌い、若い日本兵の突撃精神論で胡麻化したのが本当らしい。
また日露戦争で航空機の有用性に気が付き、世界で初めて航空母艦を建造(アイディアはイギリスだけど)したにも関わらず、老兵たちが従来の大鑑巨砲主義に固執し、結果的にアメリカ海軍に敗れたことは教科書には書かれていない。
重要な情報を知っていながら、それを未来に向けて活用するのが下手なことが日本軍の弱点だ。でも、それに気が付いても、表立って改善する気がなく、隠して済ませる悪癖は100年前、すなわち日露戦争以来、変わりがないことは是非とも覚えておいて欲しい。
別に防衛省のエリート官僚に限らないが、日本のエリート官僚は失敗を厭い、失敗するくらいなら何もしない事なかれ主義が蔓延している。今回のウクライナ戦争で21世紀の戦争の在り方が、かなり判明してきたが、おそらく日本はその情報を活用することが出来ない。
相も変わらずアメリカの金魚の糞の立場に安住し、アメリカ様の言うとおりにすることだけが正しい道だと思っている。それは政治的判断としては、そう間違っていない。でも、それだけではダメなことも自覚しておくべきだろう。何故なら、そう遠くない将来、アメリカは大きく変質すると予想できるからだ。
別に不思議なことではない。一旦、覇権国の頂点に立ってしまったら、あとは下るだけ。それが歴史が教える大原則だからだ。我が日本としては、アメリカの後を追いつつ、穏やかに衰退することが最上だと私は考えている。
それが出来るとは思えないのが、日本の不幸だとも考えている私が少し嫌ですね。