いきなり地面が斜めに見えた。
とっさに転がって受身をとってすぐに立ち上がった。なにが起きたのだ?周囲の人がビックリして私を見ている。
昼休みになったのでデパ地下にお弁当を買いに出た矢先だった。歩道を降りて車道を渡ろうとしたら、突然転倒した。怪我もなく立ち上がり、よくよく足元を見るとサンダルが壊れていた。やっぱり一足1000円の安物だとすぐ駄目になるようだ。
それにしても、よくぞ受身を取れたものだ。まだ、身体が覚えていたのだな。私は正式に柔道を習ったことはない。中学と高校の体育の授業で齧った程度だ。
どちらかといえば、プロレスごっこの延長と捉えていたので、よく先生に叱られたが、実のところ受身だけはしっかり練習していた。これは実戦的だと思い、役に立つだろうと自覚していたからだ。
あの授業から30年ちかくたつのに、未だに無意識にも受身が取れるのだからすごいものだ。それなりに熱心に練習した甲斐があった。私に稽古をつけてくれたBの奴に改めて感謝だな。
中二の時のクラスメイトのBは柔道の町道場に通っていた奴であった。特に仲が良かった訳ではなかったのだが、柔道の授業のときに急に親しくなった。他のクラスメイトは柔道が強いBと組むのを避けていたが、私はどうせ習うのなら上手い奴が良いと、自ら積極的にBに相手をしてもらった。
今でも受身がとれるのは、彼の指導が良かったからだと思う。困ったのはBがやたらと私を道場に誘うことだった。お前は足技が上手いから、道場に通えばもっと強くなれるとしきりとおだてられた。もしBが転校しなかったら、もしかしたら私も道場に通っていたかもしれない。
Bの転校と相前後して、私は落ちこぼれから真面目っ子に転進する羽目に陥り、悪ガキ仲間から裏切り者として、ずいぶんと喧嘩を売られたものだ。その際、Bから習った足技がずいぶんと役に立った。身体で覚えた技術ってやつは、本当に役に立つ。
私が柔道のすごさを認識しておきながら、正式に学ばなかったのは、その鍛錬が猛烈に厳しいことを予感していたからだ。実際、基礎練習だけで全身がボロボロになる。腕や足は擦り傷だらけで、打ち身や捻挫は日常茶飯事だ。
ぶっちゃけ怖かった。実はBから喧嘩に役立つ柔道技を幾つか教わっていた。その威力に驚いた、いやビビッた。受身がとれない背負い投げや、関節を一瞬で折る技など、その結果を思えば怖くて使えない奴ばかりだ。柔道は武道なのだと思い知らされた。
武道とは、つまるところ相手を殺す覚悟だと思う。技術ではなく、その覚悟こそが怖い。殺す覚悟があるからこそ、殺さずに済ます技術が必要になる。殺す覚悟は相手を恐れず、自分の弱さこそを真の敵だと教えてくれる。
武道とは、心の強さだと思う。私には、そこまでの覚悟はなかった。多分、あの頃私は喧嘩に嫌気がさしていたのだと思う。人と争うのは、心が疲れるからだ。
それでも柔道の凄さは、しっかりと心に刻まれている。当時はどちらかといえば、空手が人気だった。でも、路上の喧嘩にならば、柔道は怖いはずだと思っていた。その後、総合格闘技が主流となり、改めて柔道家の強さがクローズアップされるようになり、私の考えはそうずれたものではなかったと納得している。
今にして思うと、やはり柔道はもう少し真剣に取り組むだけの価値はあったと思う。びびってしまった自らの弱さを少し恥ずかしく後悔している。
表題の漫画は、軽い気持ちで柔道部に入部してしまった若者の成長の物語。バカげたシゴキに笑ってしまうが、多分ほとんど実話だろう。人間は十代の時が一番成長するものだ。あの時、真面目に柔道に打ち込んでいたらな、と軽い悔恨が胸をかすめるが、それを抜きにしても十分楽しめる作品だと思います。
とっさに転がって受身をとってすぐに立ち上がった。なにが起きたのだ?周囲の人がビックリして私を見ている。
昼休みになったのでデパ地下にお弁当を買いに出た矢先だった。歩道を降りて車道を渡ろうとしたら、突然転倒した。怪我もなく立ち上がり、よくよく足元を見るとサンダルが壊れていた。やっぱり一足1000円の安物だとすぐ駄目になるようだ。
それにしても、よくぞ受身を取れたものだ。まだ、身体が覚えていたのだな。私は正式に柔道を習ったことはない。中学と高校の体育の授業で齧った程度だ。
どちらかといえば、プロレスごっこの延長と捉えていたので、よく先生に叱られたが、実のところ受身だけはしっかり練習していた。これは実戦的だと思い、役に立つだろうと自覚していたからだ。
あの授業から30年ちかくたつのに、未だに無意識にも受身が取れるのだからすごいものだ。それなりに熱心に練習した甲斐があった。私に稽古をつけてくれたBの奴に改めて感謝だな。
中二の時のクラスメイトのBは柔道の町道場に通っていた奴であった。特に仲が良かった訳ではなかったのだが、柔道の授業のときに急に親しくなった。他のクラスメイトは柔道が強いBと組むのを避けていたが、私はどうせ習うのなら上手い奴が良いと、自ら積極的にBに相手をしてもらった。
今でも受身がとれるのは、彼の指導が良かったからだと思う。困ったのはBがやたらと私を道場に誘うことだった。お前は足技が上手いから、道場に通えばもっと強くなれるとしきりとおだてられた。もしBが転校しなかったら、もしかしたら私も道場に通っていたかもしれない。
Bの転校と相前後して、私は落ちこぼれから真面目っ子に転進する羽目に陥り、悪ガキ仲間から裏切り者として、ずいぶんと喧嘩を売られたものだ。その際、Bから習った足技がずいぶんと役に立った。身体で覚えた技術ってやつは、本当に役に立つ。
私が柔道のすごさを認識しておきながら、正式に学ばなかったのは、その鍛錬が猛烈に厳しいことを予感していたからだ。実際、基礎練習だけで全身がボロボロになる。腕や足は擦り傷だらけで、打ち身や捻挫は日常茶飯事だ。
ぶっちゃけ怖かった。実はBから喧嘩に役立つ柔道技を幾つか教わっていた。その威力に驚いた、いやビビッた。受身がとれない背負い投げや、関節を一瞬で折る技など、その結果を思えば怖くて使えない奴ばかりだ。柔道は武道なのだと思い知らされた。
武道とは、つまるところ相手を殺す覚悟だと思う。技術ではなく、その覚悟こそが怖い。殺す覚悟があるからこそ、殺さずに済ます技術が必要になる。殺す覚悟は相手を恐れず、自分の弱さこそを真の敵だと教えてくれる。
武道とは、心の強さだと思う。私には、そこまでの覚悟はなかった。多分、あの頃私は喧嘩に嫌気がさしていたのだと思う。人と争うのは、心が疲れるからだ。
それでも柔道の凄さは、しっかりと心に刻まれている。当時はどちらかといえば、空手が人気だった。でも、路上の喧嘩にならば、柔道は怖いはずだと思っていた。その後、総合格闘技が主流となり、改めて柔道家の強さがクローズアップされるようになり、私の考えはそうずれたものではなかったと納得している。
今にして思うと、やはり柔道はもう少し真剣に取り組むだけの価値はあったと思う。びびってしまった自らの弱さを少し恥ずかしく後悔している。
表題の漫画は、軽い気持ちで柔道部に入部してしまった若者の成長の物語。バカげたシゴキに笑ってしまうが、多分ほとんど実話だろう。人間は十代の時が一番成長するものだ。あの時、真面目に柔道に打ち込んでいたらな、と軽い悔恨が胸をかすめるが、それを抜きにしても十分楽しめる作品だと思います。