しかし、期待は呆気なく破れた。落葉松の林とクマ笹と、それに夥しい蚊の大群が迎えてくれただけの山頂だった。踏み跡も何もない。特徴もないどこにでもある藪山の、さして広くもない頂である。しばらくは、吹く風にまで馬鹿にされているような気がしながら、立ち尽くしているしかなかった。
使用した地図は昭和50年測量、平成8年に修正測量、使用した空中写真は平成7年9月とある。こういうことはままある。地図上は登山道と記されていても、実際に行ってみれば獣道とも判別できないような踏み跡で、敢えてそのまま辿っていくうちにそれさえも見失ってしまう、ということが。
後から思い出したことだが、初めてヒルデェラ(大阿原)を訪ねたときは、まだ昭和も昭和ウン10年も昔のことで、そのときのことはほとんど記憶から消えている。が、湿原を歩いたことは覚えている。また、辿ったコースはテイ沢を下流からで、標高2000メートルを超す無名の藪山を高巻いたはずもない。
もうこのころ、すでにこの登山道は廃道と化していたのだろうか。普通だったら木の根っこなどに、人の通った跡が残っていそうなものだが、それすらもない。
テイ沢両岸の夫婦岩にはあれほど石仏や石塔が残っている。いたるところに人の歩いた跡もある。そのことからしても、もしこの山頂を踏む山道が実際にあったなら、なんらかの痕跡がないとおかしくはないか。幻の石堂越えは文字通り幻のまま、その存在を肯定も否定もせずにひとまずおいても、これだけはっきりと記されている登山道までもが、幻だったというのだろうか。
今日、明日は富士見町とS社協賛の大自転車祭りが行われている。可愛い顔したチビッ子たちが、一流ブランドの自転車に乗ってここにもやってくる。いくつかあるクイズの場所になっているらしい。もしかしたら、ここのキャンプ場や山小屋のことも、参加者に知らせてくれようとの”あの人たち”の配慮なのだろうか・・・ウーン。