すばる(再録) Photo by かんと氏
夜更けてから、HALを連れて、天竜川の川原まで散歩した。見上げると、中天より少し傾いた辺りに古ぼけたようなオリオン座が、そして山際には薄ぼんやりとした昴が見えていた。荒れ模様の天気で風も強く、気温は急激に下がり始めたたようだったが、ピーンと張りつめた冬の夜空の趣きではなかった。
毎年、このオリオン座の現れるのを目にして、季節の移ろいを強く意識したし、冬の間は夜空にこの星座を見るたびに妙に安心した。冬が終わろうとしていることにはもう何の抵抗感もないが、オリオン座が夜空から去っていくのは正直言って淋しい。大切な物を失ってしまうような喪失感さえ感じる。古い年を送るように、去っていく季節を送る。帰らない時間への惜別の味である。
今日から3月。まだ春の雪に見舞われるかも知れないが、日毎に日の光は強まり、眠っていた野山は目覚めて活動を始めるだろう。冬の間は神代の昔をさすらっていたが、そろそろ現(うつつ)に戻る時が来た。