入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

       ’16年「春」 (15)

2016年03月15日 | 牧場その日その時

     

  山の抒情派が必ずと言ってよいくらい手にする本が、串田孫一の「山のパンセ」だろう。今なら格別抵抗感はないが、若いころは見向きもしなかった。今なら彼の書くことに共鳴するところもあるし、なかなか骨っぽいところのある人だと、彼の書くものや、人柄に対して、これまでとは違った感想や印象を持つようになった。
 彼自身が書いているが、食べる物にはあまりこだわりのない人のようだった。例えば「島々谷の夜」では、登り出す前に、地元の雑貨屋でパンを買って、道中それと水ぐらいで腹を膨らませている。他でも書いているが、腹が減ったら何でも食べるし、それで構わないらしい。
 また下山後、温泉にもあまり積極的に入ろうとはしない。温泉が嫌いというわけではないようだが、湯につかり、さっぱりとしてから、また汗で汚れた衣服を身に着けるのがいやのようだ。着替えくらい持っていけば、それで簡単に解決すると思うが、どうも抒情派の大家はそうゆうことはしなかったようだ。そこが、大家たるゆえんかも分からない。ともかく、食など些末なことにはこだわらないし、温泉のような付随的なものには頓着しない、ひたすら山の中に在ることを愛したようだ。
 そこへいくと、抒情も理解できずに野生のままで終わる者は、食にこだわり、温泉をこよなく愛す。まあ、こう書いたとて、牛を追いながら明け暮らす身を、人が美食家などと誤解する心配はないだろう。もちろんザザムシもイナゴも食べる。ここで言う旨い物とは、こんな程度のもので、高い食材にも、高価な料理にも全く関心がない。ヨーロッパ的よりも、アジア的な辛い料理が好きだ。ともかく旨ければそれでよい。
 だから塩分がどうたらとか、プリン体がどうしたとか、そんなことには目をつぶる。毎日、血圧降下剤を飲み、乳酸値を下げる薬の世話になっていても、この欲求にだけは勝てそうにない。(つづく)

 山の思い出が始まらず、寄り道に迷っている。今日はこれから「同級会の練習」と称して、気の合った男女6人くらいで、長谷の奥にある入野谷に1泊する。食べる物はもちろん、辛かったり、しょっぱかったりの山家料理。

 

 
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