入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

       ’16年「春」 (13)

2016年03月13日 | 牧場その日その時



  昨日、遠い山の日々の記憶が消えてしまったと書いた。だが、正しくは多分、人に語れるような山の思い出なぞない、と書くべきだっただろう。当時から、いつも山に向かう都度、自分は本当に山が好きなのかどうかと、そんなことすらも疑っていたくらいだ。
 早朝眠いのを我慢して起き、簡単な朝食を済ませて出発の準備をする。不安と緊張を隠して空元気を出すが、内心「さて無事に戻れるだろうか」などと自問しながらテントを出発することもあった。
 例えば、前穂東面の右岩稜は、その上にさらにAフェイスと呼ばれる壁のあることも知らず、それほど困難ではなかったがいろいろあって、途中の岩棚で雨の中一夜を明かした。その時考えていたことを山から帰って実行したが、それが良かったかどうかは別にして、人生の転機となった。そういう山行もあった。
 翌朝、A沢だったかを、奥又白池に下る草原を歩いていたときのことは、鮮明に覚えている。今度は登攀なぞせず、その岩峰の下の気持ちのいい草原に来て、周囲の山や峰を眺めながら日がな一日を安気に過ごしてみたいと思ったものだ。
 岩登りなどに一時夢中になったのは、山が好きだったからだとは今だに言えない。せめて山については、ささやかな目標ぐらいは果たしたいと、そうでなければ山から受け入れてもらえないばかりか、自分自身としても立てないと、そう思っていたような気がする。他に自分を受け入れ燃え立たせてくれるものがなかったからだが、かならずしも山でなくてもよかったかも知れない。それも出会いだろう。山はそういう者にも時にはいい態度を見せたり、また容赦のない仕打ちをする。
 本当に山が好きだと言えるようになったのは、実は入笠牧場の管理人になってからのことだ。(つづく)

 巣鴨さん、種平小屋で1泊、法華道の赤坂口から入笠牧場、そこでたくさん遊び、諏訪神社口に下るコースはお勧めです。山室川に沿って3キロばかりを出発地まで歩くのものも、オツなものです。5月初旬なら山桜、6月前後は小梨とクリンソウです。

 
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