Photo by Ume氏
里へ下る時、オオダオ(芝平峠)から山室の狭い谷を下っていくと、三角形の夕空が見えてくる。昨日は青い空の色が薄れ、白っぽい空にわずかだが赤味が射していた。一日が終わった後の深い平安と、快い安堵感を、時々だがその狭い空間は与えてくれる。様々な感慨が湧いてくる、と言ってもいい。
HALがいなくなって、家に帰る理由が前のようにはっきりとあるわけではないが、あの夕空と、それを目にして味わう諸々の思いは、その理由になるかも知れない。
牧区を移した牛の様子を見に行く。中でも昨日手を焼かされた入牧2日目の3頭の和牛は、やはり一番気になった。特に心配するのは、その可能性が高い脱柵だ。「雷電様」の草地を見回ってから、「御所平」に下ると、うまいことに全頭の牛がそこに集まっているかと思えた。放牧地を移したばかりは不安なのか、しばらくは1群でいることがある。車から降り、1頭いっとうを耳標で確認しながら頭数を数えていくと、3頭足りない。やはり心配していた通り、問題の和牛が3頭、その群れの中にはいなかった。
再度、塩くれ場まで上がり、今度は「舞台」と呼んでいる放牧地へ下った。御所平と舞台の間には沢が流れていて、車では直接行くことができないため、このような回り道をすことになる。ところが、ここにもいない。
となると、車を捨て、第1牧区の全域を歩いて回るしかない。その覚悟を決め、塩くればまで戻ろうと急な斜面を上りかけた。と、偶然放牧地の向こうのダケカンバの林の方に目をやったら、牛らしきこげ茶いろの塊が薄暗い林の中で動いた。車をそこに乗り捨て草原を横切って行ってみたら、牧草の生えていない林間に3頭がいた。なぜあんな場所なのか理解できなかったが、そっとしておくことにした。それでも、全頭の確認は済んだ。ヤレヤレであった。
あの大きな群れも、やがて幾つかに割れて、きっと牛守を一喜一憂させるだろう。
静かな牧場には5組のキャンパーがいる。新しく水を入れ替え露天風呂の用意もした。トイレの清掃は特に念を入れてやった。CM撮影の下見も済んだ。牧場の案内もした。その中でも、全頭の牛の無事を確認できたことが一番大きい。本業は牛守だから。
本日はこの辺で。