歳時記(角川文庫)を見ると「果実の形が似ているというのでつけられた名前がいささか哀れだが、愛らしい花である」とこの花の由来を説明している。もう、10年以上前になるが、ある句会の兼題になったのがこの奇妙な名前「犬ふぐり」の花で、どんな句を作ったかはもう忘れた。その後、俳句の会もいろいろあって分裂し、会の名前だけ持って出たけれども、次第に俳句への興味もなくなってしまった。同じこの季節の土筆(つくし)や蒲公英(たんぽぽ)とは一味違った思い、記憶が、いまだにあの青い色には被る。
昨夜、以前に一緒に働いていたH君から久しぶりに電話があった。彼は深大寺に家があるからてついでに花の状況を尋ねてみたら「明日行ってみます」という返事だった。花より団子の口だったかも知れない。井之頭、玉川上水、そして深大寺などが、記憶の中では美しい東京の桜だ。大々的に花見をやった年もあれば、そうでない年もあったが、東京には桜の名所がやたらと多いという気がする。そして、花に熱狂する人の数、群れも。多分、戦時中に焼け野が原にされた後、植えられた木が多いのだろう。
伊那谷も早ければ4月の10日前に開花するかも知れないと予報していた。Dさんは今年も一本桜を求めて、伊那谷ばかりか信州中を旅するのだろうか。残雪の残る山々を背景にしたり、芽吹き始めた木々の間にポツンポツンと咲く花は綺羅とは遠く、その美しさが親しみやすい。そのうち、真似してをして花の旅をしてみようかと考えている。
桜と言えば高遠城の桜を語らぬわけにはいかないが、この花は「タカトウコヒガンザクラ」という赤の色の強い花として知られていて、遠方からの花見客も多い。牧場の行き帰りに遠くから眺めるだけで毎年済ませているが、旅行会社が関係するからだろう、まだ開花しないうちから大型バスが多くの客を乗せてやってくる。それをを見たりすると、あの人たちはまた来てくれるのだろうかとつい心配する。「天下一」というほどの花かはさておき、しばらく古城の周囲は喧噪に包まれる。
昨日はあれほど好天を予報していた天気だが、昼を過ぎたら青空が消えてしまった。