大迫大佐は敬礼のやり直しを何回もさせられた。
「だめだ、貴様は誰に向かって敬礼をしているんだ。俺は師団長だぞ」
「はい、申し訳ありません」
大迫大佐は、おどおどして答えた。師団長と年齢も同じであるだけに、ひどくみじめに見えた。
師団長は許さなかった。
「やりなおし」。
炊事場に飯上げに行く時刻だったので、兵たちが沢山見ていた。
第二次アキャブ作戦が始まる前に、師団司令部で作戦会議が行なわれた。師団長、参謀、各連隊長、各部隊長が列席していた。
花谷師団長は、出席者に指名して意見を言わせた。
「山砲連隊長、作戦の対策はどうか」
井上山砲連隊長が起立して説明を行なった。
花谷師団長は、
「なんだ、お前の説明は。上等兵にもおとるぞ。それでよく連隊長になれたな」
と言ってぎょろりとした赤い目でにらんだ。
昭和19年6月、アキャブの戦場を下がってきた山砲第三大隊はアンリーの谷間に終結した。この時、師団から弾薬集積所を作る命令を受けた。
二月以来悪戦苦闘を続けてきたので全員が疲労していた。だが、雨季の雨に打たれながら作り上げた。
師団兵器部長の人見中佐が視察に来た。弾薬集積所は道路の近くと、密林の中であった。
ところが後に道路の近くの弾薬集積所が英軍の飛行機に爆撃された。このことで、人見兵器部長は花谷師団長から責任を問われた。
花谷師団長は毎日、人見中佐を呼びつけて、弾薬集積所の被害について詰問を続けた。人見中佐は連日殴られ顔は青黒く膨れていた。
兵器部勤務隊長の藤岡大尉が花谷師団長のところへ行って書類を差し出すと、いきなりたたき返された。
「貴様ら応召の将校に何が分かるか。士官学校を出ていない奴はだめだ。部長を呼べ」
人見部長が、改めて持って行くと、書類を放り投げられた。書類が間違っていいるというのだった。
「人見が悪くありました。申し訳ありません」。
謝っても殴られた。
人見部長が中佐から大佐に進級したのは「ハ」号作戦が終った後であった。人見部長は花谷師団長に申告に行った。
「申告いたします。陸軍中佐人見重吉は昭和19年8月1日付けをもって、陸軍大佐に任ぜられました。ここに謹んで申告いたします」
それを言い終わった途端、人見大佐は花谷師団長の大きなこぶしで殴り倒された。
「きっ、きっ、貴様のような、ば、ばかもんが、大佐になれるか。この階級ぬすっと」
人見大佐は乱打されて、口から血を流した。
「弾薬集積所の管理もできんやつが、大佐に進級するのは、もってのほかだ」
「だめだ、貴様は誰に向かって敬礼をしているんだ。俺は師団長だぞ」
「はい、申し訳ありません」
大迫大佐は、おどおどして答えた。師団長と年齢も同じであるだけに、ひどくみじめに見えた。
師団長は許さなかった。
「やりなおし」。
炊事場に飯上げに行く時刻だったので、兵たちが沢山見ていた。
第二次アキャブ作戦が始まる前に、師団司令部で作戦会議が行なわれた。師団長、参謀、各連隊長、各部隊長が列席していた。
花谷師団長は、出席者に指名して意見を言わせた。
「山砲連隊長、作戦の対策はどうか」
井上山砲連隊長が起立して説明を行なった。
花谷師団長は、
「なんだ、お前の説明は。上等兵にもおとるぞ。それでよく連隊長になれたな」
と言ってぎょろりとした赤い目でにらんだ。
昭和19年6月、アキャブの戦場を下がってきた山砲第三大隊はアンリーの谷間に終結した。この時、師団から弾薬集積所を作る命令を受けた。
二月以来悪戦苦闘を続けてきたので全員が疲労していた。だが、雨季の雨に打たれながら作り上げた。
師団兵器部長の人見中佐が視察に来た。弾薬集積所は道路の近くと、密林の中であった。
ところが後に道路の近くの弾薬集積所が英軍の飛行機に爆撃された。このことで、人見兵器部長は花谷師団長から責任を問われた。
花谷師団長は毎日、人見中佐を呼びつけて、弾薬集積所の被害について詰問を続けた。人見中佐は連日殴られ顔は青黒く膨れていた。
兵器部勤務隊長の藤岡大尉が花谷師団長のところへ行って書類を差し出すと、いきなりたたき返された。
「貴様ら応召の将校に何が分かるか。士官学校を出ていない奴はだめだ。部長を呼べ」
人見部長が、改めて持って行くと、書類を放り投げられた。書類が間違っていいるというのだった。
「人見が悪くありました。申し訳ありません」。
謝っても殴られた。
人見部長が中佐から大佐に進級したのは「ハ」号作戦が終った後であった。人見部長は花谷師団長に申告に行った。
「申告いたします。陸軍中佐人見重吉は昭和19年8月1日付けをもって、陸軍大佐に任ぜられました。ここに謹んで申告いたします」
それを言い終わった途端、人見大佐は花谷師団長の大きなこぶしで殴り倒された。
「きっ、きっ、貴様のような、ば、ばかもんが、大佐になれるか。この階級ぬすっと」
人見大佐は乱打されて、口から血を流した。
「弾薬集積所の管理もできんやつが、大佐に進級するのは、もってのほかだ」