風景は分け隔てなく誰にでも一種の安らぎをもたらしてくれる。そして、その風景の好みだが旅を重ねていくとたいてい変わっていく。規模は小さいもののたしかに幽谷の趣がある世古渓と、深く重なる緑のもとをほどよい幅をもって滑るように流れ、川面の岩にぶつかり波頭を砕けさせていく猫越(ねっこ)川の清流とを、わたしは茫然とみとれていた。風や雨がいつのまにか熄むように、心がみるみる落ち着いてくるのをわたしは感じた . . . 本文を読む
天城湯ヶ島は伊豆半島のほぼ真ん中に位置する。ということは車が普及するまでは交通不便な温泉地だったのだ。明治期に天城隧道ができ、大正に入って修善寺から下田までバスが走るようになると横光利一、北原白秋、若山牧水、与謝野晶子、梶井基次郎、三好達治らが逗留して多くの作品を書いた。川端康成は「湯本館」に逗留して「伊豆の踊子」を執筆した。少年時代をこの地で過ごした井上靖はその頃のことを「しろばんば」に書いた。そんなわけで、天城湯ヶ島は文人ゆかりの温泉である . . . 本文を読む
(そろそろ、いいかな・・・)腕時計をちらりとみて思う。わたしがよく間違えてしまう白石に前回行き、今回は白河ラーメンを食べてみようと来たのだが、到着がちょっと早すぎた。たいていの店が十一時半からの開店で、一時間も待つ気はない。なかに十一時開店の店をみつけその時間潰しに南湖に寄ったのだ。あずま食堂は南湖沿いのラーメンストリートにある大箱のラーメン店だ。駐車場は大きく、第二駐車場もある。カウンター席、テーブル席、小上がり席があり八十席ほどのキャパだ . . . 本文を読む
あれっ、現金がいるのかよ!)煙草の自動販売機が二台あって、わたしが吸っている銘柄の販売機が現金のみの販売となっていた。静岡の清水に向かってバイパスを走っていると「駿河健康ランド」という建物がドーンと眼の前に聳えていた。清水駅あたりのビジネスホテルでもいいが、たまにはこんなところに寄ってみるか。フロントで料金を訊くと入館料金二千五十円、宿泊(シングル)なら入館料金込みで六千百十円だったので泊まることにした。大入り満員のスルケンランド館内には老若男女がワンサといてちょっとした静岡版ワンダーランドのようだ . . . 本文を読む