<抹茶一服からの、和歌山ラーメン(2)>
城をぐるりと廻って歩きだし、「いやですねぇまるで方角違いですよ」と地元のオバサンに笑いながら教えてもらって、ようやく見覚えのある和歌山駅近くまで戻ってきた。地図はばっちり頭に入っているのだが、和歌山市内はランドマークがいかにも少なすぎるのだ。
駅手前の一本目の、ここを右だな・・・・・・。しばらく歩くと、見覚えのある派手な黄色い店がみえてきた。飲食店はプランBの用意が肝要だが、今日の和歌山ラーメンにはプランAの井出商店一本勝負だ。
井出商店は平成十年(1998年)のTVチャンピオンの特番「日本一うまいラーメン決定戦」で見事に優勝して一躍メジャーデビュー、三時間待ちという超長蛇の行列をつくる人気店となった。わたしが前回来たときは、たぶんその直後あたりだった。
今日の行列は・・・なしだ。そりゃそうだろう、ピークタイムをたっぷり過ぎていて、時計をみると2時半を過ぎている。気になっていた中休みもどうやらなかったようで、ひと安心する。
「いざ、見参!」
小さく呟いて、引き戸を開けて二十席ほどの小体な店内へ。えっうそ、がら空きかと思えば、こんな時間でも七、八割がた席が埋まっていた。
右手にあるカウンター席に坐り、メニューを見あげる。腹ペコだが、これからの予定を考え軽めにしとこう。
「中華そばと、あの『すし』ってどんなのが」
店内のあちこちで、客がなにかをもぐもぐ食べている。
「『早すし』っていう鯖の寿司と、海苔巻きがあります」
「どちらが注文多いですか」
早すしのほうだそうで、それを注文した。いわゆる鯖のバッテラ寿司で、ひと晩でできることから名づけられた、とはあとで知った。和歌山では、この「早すし」とか茹で「玉子」を食べてラーメンを待つらしい。
あっという間に早すしが運ばれてきて、とりあえず包装を解いたがラーメン到着まで食べずに我慢する。
それほど待たされぬうちに、ラーメンが到着する。
まずは丼の景色を眺めるが、具は置いておいて、オマエいまいちの器量だなと思わせるのはとんこつスープの色のせいだ。
和歌山ラーメンには「車庫前系」という澄んだしょうゆスープと、「井出系」と呼ばれる白濁豚骨しょうゆスープの二種類あるそうだ。そして井出商店も昭和二十八年(1953年)、初代が屋台から創業した当時は澄んだ醤油スープだったそうで、豚骨と少量の鶏ガラだけを十二、三時間炊くだけ、という現在の井出系スープの原型は二代目になってからだそうだ。
まずは気になるスープからいってみる。
スープは予期せぬほどのいい匂い。厭な臭みはいっさいなしだ。きっと、入念な下処理、そして血抜きとアク抜きなどの手間を丁寧にかけているのだろう。
少量だけ啜ってみると、ひじょうにまろやかで風味とコクがある、クセのまったくない信じられぬほど上質な風味ある味わいである。まいったぞ。こいつはしまった、あの日、待つべきだったか。
ストレートのしなやかな麺をたぐると、二人の仲を裂かれてたまるかとばかりこの旨いスープがたっぷりしがみついて、口中へ一緒に嬉しそうに連れ添って飛びこんでくる。
早すしをお供にラーメンを啜り、歯触りのいいチャーシュー、適度な歯ごたえのメンマ、いかにも和歌山らしい梅の花のカマボコと、一気に食べきった。なんかもう少し食べたい、という後を引くラーメン、ひょっとして「井出中毒」にはまったか。
『晴れの日も、雨の日も。一杯、一杯を大切に心をこめて。』の精神で日々営業しているという井出商店、なるほどたしかに接客もよかった。ラーメンも、いまいちの器量なんて評したが全面撤回しておく。
和歌山は「陸の孤島」といわれるように、飛行機を使わないわたしみたいな旅人には、九州宮崎とともに、ひどく遠いところに感じられる場所である。
ふた昔前のあのとき和歌山ラーメンと出逢っていたら、もっと何度も和歌山に・・・などといっても仕方がない。
和歌山市までだけなら意外に近いのだから、よし、また来るとしよう。
→「抹茶一服からの、和歌山ラーメン(1)」の記事はこちら
城をぐるりと廻って歩きだし、「いやですねぇまるで方角違いですよ」と地元のオバサンに笑いながら教えてもらって、ようやく見覚えのある和歌山駅近くまで戻ってきた。地図はばっちり頭に入っているのだが、和歌山市内はランドマークがいかにも少なすぎるのだ。
駅手前の一本目の、ここを右だな・・・・・・。しばらく歩くと、見覚えのある派手な黄色い店がみえてきた。飲食店はプランBの用意が肝要だが、今日の和歌山ラーメンにはプランAの井出商店一本勝負だ。
井出商店は平成十年(1998年)のTVチャンピオンの特番「日本一うまいラーメン決定戦」で見事に優勝して一躍メジャーデビュー、三時間待ちという超長蛇の行列をつくる人気店となった。わたしが前回来たときは、たぶんその直後あたりだった。
今日の行列は・・・なしだ。そりゃそうだろう、ピークタイムをたっぷり過ぎていて、時計をみると2時半を過ぎている。気になっていた中休みもどうやらなかったようで、ひと安心する。
「いざ、見参!」
小さく呟いて、引き戸を開けて二十席ほどの小体な店内へ。えっうそ、がら空きかと思えば、こんな時間でも七、八割がた席が埋まっていた。
右手にあるカウンター席に坐り、メニューを見あげる。腹ペコだが、これからの予定を考え軽めにしとこう。
「中華そばと、あの『すし』ってどんなのが」
店内のあちこちで、客がなにかをもぐもぐ食べている。
「『早すし』っていう鯖の寿司と、海苔巻きがあります」
「どちらが注文多いですか」
早すしのほうだそうで、それを注文した。いわゆる鯖のバッテラ寿司で、ひと晩でできることから名づけられた、とはあとで知った。和歌山では、この「早すし」とか茹で「玉子」を食べてラーメンを待つらしい。
あっという間に早すしが運ばれてきて、とりあえず包装を解いたがラーメン到着まで食べずに我慢する。
それほど待たされぬうちに、ラーメンが到着する。
まずは丼の景色を眺めるが、具は置いておいて、オマエいまいちの器量だなと思わせるのはとんこつスープの色のせいだ。
和歌山ラーメンには「車庫前系」という澄んだしょうゆスープと、「井出系」と呼ばれる白濁豚骨しょうゆスープの二種類あるそうだ。そして井出商店も昭和二十八年(1953年)、初代が屋台から創業した当時は澄んだ醤油スープだったそうで、豚骨と少量の鶏ガラだけを十二、三時間炊くだけ、という現在の井出系スープの原型は二代目になってからだそうだ。
まずは気になるスープからいってみる。
スープは予期せぬほどのいい匂い。厭な臭みはいっさいなしだ。きっと、入念な下処理、そして血抜きとアク抜きなどの手間を丁寧にかけているのだろう。
少量だけ啜ってみると、ひじょうにまろやかで風味とコクがある、クセのまったくない信じられぬほど上質な風味ある味わいである。まいったぞ。こいつはしまった、あの日、待つべきだったか。
ストレートのしなやかな麺をたぐると、二人の仲を裂かれてたまるかとばかりこの旨いスープがたっぷりしがみついて、口中へ一緒に嬉しそうに連れ添って飛びこんでくる。
早すしをお供にラーメンを啜り、歯触りのいいチャーシュー、適度な歯ごたえのメンマ、いかにも和歌山らしい梅の花のカマボコと、一気に食べきった。なんかもう少し食べたい、という後を引くラーメン、ひょっとして「井出中毒」にはまったか。
『晴れの日も、雨の日も。一杯、一杯を大切に心をこめて。』の精神で日々営業しているという井出商店、なるほどたしかに接客もよかった。ラーメンも、いまいちの器量なんて評したが全面撤回しておく。
和歌山は「陸の孤島」といわれるように、飛行機を使わないわたしみたいな旅人には、九州宮崎とともに、ひどく遠いところに感じられる場所である。
ふた昔前のあのとき和歌山ラーメンと出逢っていたら、もっと何度も和歌山に・・・などといっても仕方がない。
和歌山市までだけなら意外に近いのだから、よし、また来るとしよう。
→「抹茶一服からの、和歌山ラーメン(1)」の記事はこちら
おはようございます。
そして、あけましておめでとうございます。
コメントありがとうございました。
井出商店の選択は長年の思い入れがあったものですから。
地元に暮らしていらして、他にもっと美味しいお薦めの店があれば、ぜひご教示ください。
できれば二店舗(プランA、プランB)教えていただければ幸いです。
次回訪問の際、参考にさせていただきますので。