酒呑みはたいてい漬物好きである。わたしもその例にもれないが血圧が高いので漬物は意識してセーブするようにしている。それなのに突然、しゃくし菜が食べたくなった。秩父の宿で五回くらい泊まっているが記憶がない。秩父地方の名物「しゃくし菜」は正式名称を「雪白体菜(せっぱくたいさい)」といって葉の形状がしゃもじに似ていることから名づけられた。一見したところ野沢菜に似ているが繊維質が少なく、塩辛くない。埼玉の秩父の<しゃくし菜>が食べられる酒場をどこか知りませんか? と酒場通の友人にメールしてみた。「あるよっ!」間髪いれず返信がすぐに来たのは、さすがである . . . 本文を読む
湯田川温泉は、鶴岡城址あたりからだとたったの七キロ、車で十五分とかからない距離であった。鶴岡の奥座敷といわれているのだが、表座敷の次の間くらいの感じで少しも遠くなかった。鄙びた雰囲気の温泉街をゆっくり進むと、本日の宿「湯どの庵」を発見した。見た目は一見、料亭風の建物である。「ご予約のお客さまでしょうか。お名前を」玄関の格子戸を開けたところで、漆黒のカマーエプロンというのだろうか、カフェの制服をきっちり着こなした若い女性に訊かれる。そうか、この宿はパンケーキが人気のカフェを併設しているのだ . . . 本文を読む
意外と新しい提灯と暖簾だが、店構え全体と木の看板に書かれた「うどん」の文字がなんとも末枯れてシブい。それもその筈で大正時代の建物、昭和29年の創業である。懐かしい木の格子戸を引いて店内に入ると、入口近くの卓にお婆さんがひとりうどんをゆっくりと啜っていた。時刻はもうすぐ五時だ。ひょっとしたら、ゆっくりできるように空いている隙間の時間を狙っての入店かもしれない。厨房の女将さんに軽く会釈しながらカウンター前の卓に座り、注文は決めているのにメニューを検討するふうに店内をじっくり拝見する。椅子も木のカウンターも、卓も、あらゆるものに年季が入りまくっている。「ごぼ天うどんをください」 . . . 本文を読む
(温泉こそ透明で違うが、この三つ並んだ丸い露天のひとり用浴槽、こいつはたしかにはっきりと覚えているぞ!)温泉好きとしては、気が抜けたサイダーというか、チェーン系安酒場にありがちな十杯飲んでも薄すぎて酔えない水割りみたいな温泉なのが真に残念至極である。これも宿泊が低料金なのでいたしかたないか。当たりばかりが多い九州の温泉で、ここがまさかハズレに変わっていようとは思いもしなかった。いつもなら、ブログ記事で「いの一番」に披露する温泉画像も最後にしたのでわたしの落胆ぶりが想像できるだろう . . . 本文を読む
その昔、江の島へは、引き潮のときに砂嘴(さし)が現れて徒(かち)つまり歩いて渡れた。潮の満ち引きは月の引力に関係する。月は地球の周りを廻っているので、海面はそれにより約十二時間半で満潮から満潮へ、引き潮から引き潮に変化する。月の動きに太陽の動きが重なり、潮の満ち引きの大きさが決まる。日本の太平洋側の干満の差は約1.5mあるといわれる。だから、干潮に渡って江の島でゆっくりしていると、渡し船の世話になることになってしまい熊さん八っつぁんら庶民には思わぬ散財になってしまうのだ . . . 本文を読む