ねぶたの製作期間は約三カ月である。祭りのある八月に間に合わせるため、通常五月から製作が始まるのだ。ねぶたはまず題材を決め下絵を描くところから始まる。顔、手、足、槍や刀などの細部を作っておき、作成と作品収納のための広い間口と奥行きを持つねぶた小屋を作る。そうして、いよいよねぶた作りである。角材を使った支柱に、針金や糸を使って形を作る。次に照明となる電気配線を完了すると、いよいよ紙(奉書紙)貼りでこのあたりでやっとねぶたらしくなる。純白のねぶたに墨で顔や手足、着物の柄など書きわけてから、「ろう書き」といってパラフィンを溶かして模様をつけていく。そして染料で色付けをしてねぶた本体が完成する . . . 本文を読む
三ノ輪の「元祖青木屋」のコッペパンは、大ぶりなメンチカツやコロッケを挟むのでちょいと太っちょである。それに比べると、キラキラ橘商店街にある「ハト屋」は、すっきりスリムな体型のコッペパンが並んでいる。「コッペパンください」というか、それしかないのである。「いくつ?」何個も買う客ばかりなのだろう、初老のご主人が訊きかえした。「すぐ食べますのでひとつでいいです。あっと、ジャムを付けてください」これも、ピーナッツバターかイチゴジャムと選択肢が限られているのだ . . . 本文を読む
青森駅のすぐそばにある洒落た建物が、青森市の文化観光交流施設「ねぶたの家 ワ・ラッセ」である。平成二十三年(2011年)一月に、青森駅ホーム東側に広がるウォーターフロントエリアに開業した。「ワ・ラッセ」とは、ねぶたの掛け声である「ラッセラー」に、「笑い」、人と人との「輪」・「環」、調和の「和」、を表現したという。ここには、大型ねぶたがいくつも展示されていて、必見である . . . 本文を読む
美味しいパン屋についてだが、わたしは信州高山温泉郷の近くにある「清水ベーカリー」を基準にしている。この店が九十点くらい。ここのパンは何を食べても旨い。そして安い。ここの焼きそばパン以上のものはいまだお目にかからない。伊東の江戸屋の焼きそばパンがそれに続く。そのすぐ下位くらいが、ちょっと高級感が漂う那須温泉郷の「ペニーレイン」くらいだろうと思っていた。しかし、ひょんなことから意外と近くにパンの名店を発見してしまったのである . . . 本文を読む
酒場で無聊の時間を持て余したときは、旅を思いだしながら酒を呑む。その日は橋のことを思いだしながら杯を重ねた。いままで渡った美しい橋といえば、岩国の錦帯橋か津軽の虹の舞橋をまず思いだす。いずれも木製の橋である。山口の日本海側にある角島大橋もコンクリート製ではあるが、デザインがとても美しい橋で気にいってしまい二度も往復している。怖くて渡れない橋もあった . . . 本文を読む
今日の昼はここにある「金子半之介」の天丼と決めて、川崎で途中下車したのである。なんでも評判の天丼らしく、日本橋の本店では長蛇の行列ができるらしい。行列嫌いだが川崎ならあまり待たずにすみ、丼つゆもそれほど甘くないと聞いたのだ。それにしても「金子半之介」という店名は凄い。なんとなく、天ぷらだけでなく剣の達人のような怖いイメージの名前である。日本橋本店の無言の客が居並ぶカウンター・・・天丼を半分残して立ち上がったら、ひと睨みした何代目かの店主の手元が一閃し、音もなく飛来する必殺の出刃に、殺気を感じて放つわたしの奥技「真剣白刃取り」が寸毫間に合わずただの拍手と化す。眉間に的中、突き立った包丁を寄り目で見ながら「だって丼つゆが思ったより甘かったんだもん・・・ . . . 本文を読む
八戸は酒呑みには堪えられない街である。ここでいう八戸とは、新幹線の八戸駅付近ではなく本八戸駅のほうである。八戸駅からだと車で十五分くらい、八キロほど離れている。酒場がひしめく横丁が、たぬき小路、長横町れんさ街、ハーモニカ横町、口一丁れんさ街、五番街、花小路、みろく横丁、八戸昭和通りと八つもあるのだ。れんさ街とは、飲食店が鎖をつないだように並んでいることから名づけられた。こちらの「みろく横丁」は、いわば屋台村である . . . 本文を読む
このまえ東京の下町をぶらついていて、昼時にレトロな食堂をみつけてはいった。定食を食べようと思っていたのだが、客の半分くらいが昼から呑んでいる。そのつまみの皿をみて瞬時に心を奪われ、ついついわたしも一杯呑むことに変更した。金宮の焼酎と同じ皿を注文した。懐かしい小さくて赤いウインナである。もっとチビな蛸ちゃんウインナもあって泣かせてくれる。安くてうまいおでん屋とか、こういう懐かしいもの出してくれる食堂とかをみつけると、下町をぶらつく甲斐もあるというものである . . . 本文を読む
朝虫といえば、前にこんなやりとりがあったことをなんとなく思いだしてしまう。「『あさむし』ってどんな虫なんですか」誰かの送別会に出席したときに、前に座った同僚女性がわたしに訊いた。「はぁ? それって『ざざむし』のことじゃないの」
アサ虫・・・なんて虫は聞いたことがない。ざざ虫は信州とかの川で、流れのなかの石をひっくり返すと、裏側にへばり付いているケラの幼虫である。釣りの餌に使われるだけではなく、郷土料理の一品にもなっている。「じゃなくて、青森のほうにそんな温泉があるじゃないですか」「ああ、なんだ。浅虫温泉のことね . . . 本文を読む