Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

教皇の信仰病理学講座

2006-09-18 | 文学・思想
ベネディクト16世のモハメッド発言への世界の反響は大変興味ある。一つはトルコのような国家としての抗議で、11月に教皇訪問が予定されていることから、政府として先手を打ったのであろう。つまり、教皇の講演は、学術的なもしくは宗教的な発言として受け取られた訳ではなくて、政治的な発言として騒動を引き起こした。その聖職者としての立場ではなくその発言内容に既にこうした要因があったのは確かである。

過激な反応を起こした、パキスタン、インド、アフガニスタン、インドネシアにおいて、扇動やデマゴークが存在したのか、原理主義者と呼ばれるような宗教団体が抗議行動へと進む過程など興味ある。

これらはミサにおいてアジアとして、クウェートやモロッコなどはアフリカとして定義されたものに含まれる。そして、理性を持ってこれらとのお互いの対話を教皇が語っている。

改めてその講演の内容について語る必要性は無く、ヴァチカンのスポークスマンが謝罪説明をした以上の事は無い。そしてそこには情報や一般教養としては特別に新たな内容は無いとは言え、手の込んだ修辞法だからこそ、その内容が世界メディアを通す内に歪曲して正しく伝わらないのは仕方が無い。

新教皇の知的業績についてその傾向を把握出来ているとはいえないが、講演内容の評価を試みてみたい。神学者ラッチンガー教授のレーゲンスブルクでの講演の真意は、ミサでの西洋・非西洋と二極化した叙述の中に据えられている。そして、アジア・アフリカとして挙げたそれぞれの地域と民族文化を考えてみるが良い。それはきっと紛争地域であったり、西洋社会においてテロリズムの震源地として挙がる地域で、それに対照して西洋も定義されている。

ここでキーワードたるサブカルチァーの意味を把握しなければいけない。それは、一義に未だに実証主義的理性と哲学形式が宇宙であるとする西洋文化を指す。そうした文化が、未知の神を深く懐に抱き強硬に合理性を主張する文化との対話など出来る筈が無いと説く。

その対話すべき文化たるものがイスラム文化であるのは明白だが、決してそれを限定していない。そして西洋側からの処方箋を提議している。文化的実蹟を神学上の関係へと強引に持ち込んだその方法が、他宗教の信仰を美学的に捕らえたとする非難がある。これは、未知の神を理解する方法の一つでしかないとも思われる。だからこそ同様にキリスト教のアイデンティテーを探るギリシャ文化の影響を挙げているのが注目される。そしてついでながらここで「合成された文化は、ギリシャ文化」であると限定していることも留意しておかなければいけない。

とにかく、そのギリシャのロゴスを基礎とした理性の世界を、中世神学発展を踏まえた論拠としていて、且つまたヘレニズムとまた啓蒙の議論へと立ち戻っている。そして、三度目の脱ヘレニズムと同時に啓蒙の弁証法を越えての回帰と言うことがありえないことを明白にしている。

こうして行き着く先は、提示可能な認識出来るものと、同時に認識不可能なものとの「理のある関係」が可能となるに違いないと言う思考プロセスを論じることになる。これは講演の中でカントが与えた信仰の理性や人間化したイエスにおける哲学からの解放の二度に渡る脱ヘレニズムの現象として列記されている。それは、哲学的な思考に重点を置くのではなくて、自己自身の定義への問いかけとして、上述のヘレニズムの問題として、もしくはカトリック教会のまた教皇自身の欧州自体の自然な特性の基盤への喚起ともども叙述される。

些か複雑であるが、これを今西洋で求められている問いかけとするならば、非西洋においても同様な問いかけがなされるべきで、その方法は異なっても民族や文化の源を探って、ある姿を認識しようとすれば、同様な知的作業が必要になることを語っている。

そしてこれを思い切って世俗の話題として取り上げてしまえば、現在のイスラム社会の不穏に対して西洋が対応出来るとすれば、こうした世界観を持った西洋でしかなく、決してホワイトハウスのようなものではないと言うことである。それは、イラン大統領が示した手紙の中身にも対応していて、とってもではないが西洋サブカルチャーが太刀打ちできるものではないと言う警鐘である。ベネディクト十六世の演説が、何かを生み出すとすれば、それは決してイスラム圏の暴動ではないのである。



参照:
矮小化された神話の英霊 [ 文学・思想 ] / 2006-08-21
豊かな闇に羽ばたく想像 [ 文化一般 ] / 2006-08-20
コメント (8)
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