Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

不安の時代の闘争

2018-06-07 | マスメディア批評
週末は雷雨勝ちとある。気温も上がるが夜間は18度だから窓を閉めれるだろう。それでも土曜日は天候が落ち着くようで、日曜日は30度を超える。ワイン祭りをどのように乗り越えるか?日曜日にはマーラーの九番の演奏会もあり、土曜日も無いことはないのだが、避難にどこまで逃げて幾ら掛けるかだ。宿と入場券で最低100ユーロ近くになる。コンセルトヘボーでハイティンク指揮を聞こうと思えば、それだけで150ユーロを超えて、燃料代もそれに近くなる。その価値はない。涼しい時期ならば屋外で過ごすのも良いが、陽射しが強いと不快でしかない。目的地が地中海沿岸ではないからFKK海水浴ともいかない。やはり、諦めて、先頃購入したイヤーフォンのテストネズミになっていようか。そのためにも投資したのだ。騒音の中でノイズキャンセリングで問題なく音楽が聞ければ閉ざされた中でこれほどの愉悦は無いのだが。

テルアヴィヴからの中継録音は素晴らしかった。フィラデルフィアの一行はイスラエル中で大歓迎されるのは言うまでもない。イスラエル人で今イスラエルへと特使として出向くことの意味を解さぬ者はいまい。世界中でどのようにイスラエルが批判されているかが自覚されているのは当然で、その中でももともと現在の政策に批判的な層も少なくはないだろう。そうした背景はイスラエルの英字紙でも読み取れる。

一曲目のバーンスタインの交響曲二番「不安の時代」の演奏はいつになく素晴らしかった。印象としては、拍を深く刻んでいるためかテムピが遅く感じられたが、新聞などはいつもほど間延びしてなかったとある。実際に一部冒頭プロローグのクラリネット合奏からとても間をもたせている。しかしなによりもこの木材をふんだんに使っているとされる会場の音響が素晴らしい。生では双方とも知らないのだが、このブロンフマンアウディトリウムのマイクロフォンセッティングは、エルブのそれとは異なり、とても魅力的な響きを伝えている。それはまるで同じ豊田のエルブについて語られるディテールまでが聞こえるそれで、なぜかエルブのNDRのセンターマイクロフォンでは細部がマスキングされてしまっているのだ ― 正しいメインマイクロフォンセッティングがまだ定まっていないようだ ―、細部が手に取るように聞こえ乍ら全体が綺麗に鳴っている。まさしくそれが生で聞くフィラデルフィアサウンドの繊細さで、微細なクリーヴランドの鳴りとはまた異なる本格的なものだ。但しとても興味深いことにここでの響きは湿り気があって、あの乾いたアメリカ管弦楽団の響きがここでは殆どイスラエルフィルのそれのようにウェットなのだ。

私は特にその第二部を聞いていて、バーンスタインが指揮する「カディッシュ」を、あの広島での公演の情景を思い出してしまった。あの夏の暑く重い空気感を、上着の色の変わっていく汗の滲むバーンスタインの背中を思い出した。そのアンダンテ―コンモートの盛り上がりはバーンスタインがマーラー解釈で聞かせるものなのだが、イスラエルの普通のジャーナリストがそれの聞こえ方を綴っている。

「この曲を通して、バーンスタインで問題になる針が落ちても聞こえるほどのそれが、最後には鼓動が聞こえるような高揚へと掻き立てられた」 ― 実際にその前に会場で携帯が鳴っていたのは放送で確認した。「それがイスラエル社会の ― 実はどの社会のもであるが ― 希望を思い起こさせるような演奏で、どの社会でも上手く行っていないことは神の知るところで、希望はそこにあるのだ、そしてバーンスタインそれ自身がイスラエルの文化歴史のカギとなっていて、暗示しているようだ」と、「闘争はいつも厳しく、秩序と制御、記録と予言、愛と苦悩を齎す」と書き、「その闘争それ自体が全てだ」と纏めている。ピアノのティボデーなどが語っていたが、まさしく音楽は宗教ではないところかもしれない。

ネゼセガンが繰り返しアンコールで音楽的に表明する、ややもするとキリスト教的と聞こえる「愛」がどのようにイスラエルでは受け取られているかは分らない。しかし、テルアヴィヴまでは国歌演奏も無しに進行して来ていて、その背後には関係者の配慮があるに違いない。最後のエルサレムこそは注目されるが、国歌の演奏で再び批判を浴びるまでに音楽家を追い込むのは間違いだ。バーンスタイン後に鳴りやまぬ拍手に答えてラヴェルのパヴァーヌがピアノ演奏された。さて今晩は最終日の中継録音放送である。
The Philadelphia Orchestra. Tel-Aviv 4.06.2018




参照:
In Tel Aviv, Philadelphia Orchestra triumphs over ‘Age of Anxiety’ JAMES INVERNE, (The Times of Israel)
WRTI To Simulcast Philadelphia Orchestra Concerts In Israel, Germany, Austria (WRT1)
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