Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

ロマティック交響曲トリオ

2023-09-11 | アウトドーア・環境
金曜日にルツェルン音楽祭で環境活動家が演奏会に乱入した。その反響はとても大きく、恐らく本年の演奏会の中でもトップクラスのイヴェントだったと思われる。各地で名画などにペイントをかけたりした環境テロ行動は有名で、道路閉鎖などはバイエルン州では厳しく取り締まられるようになっている。しかし今回の行動に対して、抑々環境保護に熱心な指揮者ユロウスキーが楽団創立500周年記念のミュンヘンの座付き管弦楽団を率いて大賞賛となる対応をした背景にはその芸術的な認識が横たわっていた。

先ずは後半のブルックナー作曲ロマンティック交響曲の三楽章スケルツォのトリオに入る前に男女二人の瞬間接着を持った若者が平土間前部から舞台に駆け上がって、指揮台の後ろの手を着けようとした。実際には接着しなかったようで、それには指揮者の基本態度が影響したとされる。そこからのヴィデオは断片的ながら残されていて、今もその環境団体のサイト等で観覧可能となっている。

指揮者ユロウスキーの意識は何度か言及しているのリンクを張るに止めるが、今回は不慮の事態にも動じず、観客の方に落ち着いて聴くように指揮して、三楽章トリオで声明をさせて、更に繰り返しを終えて棒を置いた。そして活動家とディールをした。先ずは聴衆が若者の言葉に耳を傾けたら、彼らは会場を後にして、終楽章を続けると宣言した。しかし活動家の声明にヤジが飛んだことから、それに対して、約束が守れないようなら自分が舞台を後にすると聴衆を制した。それに対してその他の観客からは拍手が沸いた。そして僅か四分の中断で再び平安な演奏会へと戻った。会場を後にした聴衆はただの一人だとされる。

これを受けて、ミュンヘンの劇場支配人ドルニーは、とても興味深くと、演奏者が集中して演奏した事を賞賛している。主要な高級紙や地方紙などもその活動家の主張への理解を示して、ユロウスキーの民主的な統制だけでなくて素晴らしい演奏会だったとなどと大賞賛している。

なぜこのような演奏会が取り分け素晴らしかったのか、それは先ずは活動家自身も語ったように音楽愛好家としての乱入だったことが伺えて、指揮者のユロウスキーも直ぐにその意味を解釈したのだろう。トリオの牧歌風の響き自体が既に創作時においてもある意味パラダイス的なものであって必ずしもヴィーンなど都会からすれば遠く失われたものだった。そして語り始める「気候変動で、今何かをしなければ、時間はない」と。スケルツォに戻っての狩りのホルンに乗って「私達にはほかに選択がないのだ」と声明される。そのヤジを含めて、ユロウスキーはミュジックコンクレートとして若しくはブルックナーをモンタージュ素材として指揮したに違いない。それによって浮かび上がるのは、まさしく失われた未来への視座である。

音楽技法としては前世紀の中盤当たりの作風なのであるが、そうすることによって改めてブルックナーの創作動機へと近づける。このイヴェントに居合わせてより深くブルックナーの創作動機に触れられた人は少なくないと思われるから大成功したのである。高度な芸術は様々な出来事に対して洞察力や自らの磨いた感覚に従えるようでないと到底理解や共感は不可能なのである。



参照:
飛行機旅行ボイコット 2022-12-24 | マスメディア批評
スタリニズムに反しない創作 2023-03-22 | 文学・思想
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