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勝つ為の戦争から、負ける為の戦争に

2009-04-25 09:19:00 | 時事/金融危機
■戦争という名の公共事業■

ケインズ経済学の理論に従えば、不況あるいは恐慌時に有効が経済対策は、
大規模な公共事業による消費の喚起となります。

昔から言われている事ですが、「大規模な公共事業」の最たるものは戦争です。
今回の金融危機の行く先には、果たして「公共事業」が待ち受けているのでしょうか?

■戦争の原因は経済■

人と人とが殺しあう「戦争」は、相互の憎悪の高まりによって引き起こされる、
あるいは、文化の対立によって引き起こされると思われがちです。

しかし、古来戦争とは経済によって引き起こされます。
古代の部族間抗争の時代においては、その構造はシンプルです。
食べ物が足りないから、他部族を襲い、その生産基盤と労働力を奪うというものです。
物資・食料が足りないから武力で奪う、いわば「インフレ型の戦争」です。

しかし、産業革命以後の大量生産・大量消費社会においては、戦争の原因が一変します。
市場主義経済は効率性を追求する事で発展をとげます。
いかに安く、大量に生産するかが、生き残りの条件になります。
大量生産は大量消費を大前提とします。
ところが、消費には限界があり、その限界に達した時、「デフレーション」が発生します。
当然、新たな市場が求められます。
自国内の市場が飽和している時、他国の市場を開拓しようとします。
ただし、他国にも「産業」が存在するので、保護的な動きが高まります。
この「保護主義」を武力でねじ伏せて、市場を獲得する行動が、
産業革命以降の近代戦争の起きる原因です。

表面的には宗教や、イデオロギーや、文化の摩擦の様に見えますが、
それは経済の軋轢を戦争に昇華する為の口実に過ぎません。

■アフガニスタンやイラク戦争は経済戦争か■

第二次世界大戦までは、戦争は資源獲得と市場獲得という観点で説明可能でした。
しかし、不可解なのはアフガニスタン戦争やイラク戦争が表面的には説明不能な点です。
確かにアフガニスタンは地政学上、中央アジアの要衝です。
イラクも巨大油田を有しています。

しかし、アフガニスタン戦争でアメリカはたいした資源も市場も獲得出来ません。
イラクの石油利権は戦後、中国とロシアが手に入れています。
(北部の油田は別ですが)
イラクが巨大市場に発展する見込みは、期待薄です。

表面的に見れば、近年の戦争は経済効率の薄い戦争の様に見えます。

■市場経済の最大の障害■

田中宇氏の「隠れ多極主義者」論は、この不可解な事象を説明するのに、
非常に魅力的な視点です。

「現代資本主義の拡張を阻害しているのは、アメリカの一極主義である」
という新たな視点は、現代の矛盾を簡単に解体する事が出来ます。

既にイギリスもアメリカも製造業は崩壊しています。
その点において、この2国は既に物質生産と消費を主体とする経済学は通用しません。
大量生産による「デフレ」が発生し得ない国となっているのです。
この2国は「金融資本主義」というケインズ経済学が想定していない新たなフェーズに突入しています。

「金融資本主義」において資本は国境を軽々と越境します。
商品の様な、物質の移動や、関税の様な障壁はありません。
電子の流れに乗って、資金は地球規模で瞬時に移動します。

もはやアメリカもイギリスも、物質生産によって発生する利益のうわまえをはねる、
上位者としての存在を確立しています。

庶民を鑑みれば、確かに生産と消費に縛られ、国境に拘束されています。
しかし、金融資本にとっては国境は金利差を生み出す利益の源泉でしかありません。

■より多くの利益・より広大な市場■

これらの越境した金融資本にとって、アメリカ一国の富よりも、世界全体の富の方が魅力的です。
ですから、ドルの一極支配によって、アメリカ一国に富が還流するシステムは非効率となります。
産業が壊滅状態でインフラ整備もほぼ終了しているアメリカでは、資金による富の生産効率が低くなっています。
ですから、金融資本はより多くの利益を求めて、アメリカ以外の地域で経済発展を望むようになります。

軍事・経済の両面でアメリカの地位が低下すれば、資金の運用効率が高まるのです。

■金融デフレと戦争■

20世紀型の戦争が「商品が需要以上に生産される状態」即ち「商品デフレ」によって誘発されています。
しかし、現在も進行中のデフレは一見「商品デフレ」の様に見えますが、その商品が「金融商品」である所に従来のデフレとの違いがあります。
この状態を仮に「金融デフレ」と呼称するとします。

「金融デフレ」とは金融商品が需要以上に供給される状態です。
「金融デフレ」とは、投資資金に対して、魅力的な投資対象が無い状態です。
その結果、金融商品の利回りが低下し、金融商品の価値が減少してゆきます。
拡大した金融市場が、新たな投資先として開発した粗悪な商品がサブプライム・ローンであり、CDSの様な崩壊しやすいシステムなのです。

近代の戦争理論からいけば、デフレは市場拡大の手段として戦争を誘発します。
それでは、「金融デフレ」は戦争を引き起こすのでしょうか?

アメリカの一極主義が「金融の拡大」を阻害するのであれば、
「金融デフレ」の引き起こす戦争は、アメリカを崩壊させる戦争となるはずです。

アメリカへの一方的な富の還流が止まれば、世界は一時の停滞の後、
BRICSやその他の地域が、自立発展を初め、物・金の需要が高まります。
当然、資源価格の右肩上がりの上昇や、新興国株価の上昇など、
投資機会は格段に増えてゆきます。

アフガン戦争やイラク戦争はアメリカ崩壊の為の戦争と捕らえる事が出来ます。
これらの戦争は、非常に限定的であり、人的被害もいわゆる大戦と呼ばれるものに比べたら、少ないものです。
しかし、財政の悪化という形で、確実にアメリカの崩壊に寄与しています。
真綿で首を絞めるように、徐々にアメリカの生命を奪っていきます。

従来の戦争が、国民国家の利益の為の戦争であるのに対し、
昨今の戦争は、金融資本家の為の戦争です。
血を流すのは、貧しい国民で、経済の弱体化によって苦しむのもアメリカ国民です。
政治家は国民では無く、金融資本家に奉仕する存在となり、
GMなどの製造業は衰退を余儀なくされます。
収益性の高い産業が、収益性の低い産業を淘汰するのも自由主義経済です。

しかし、民主主義社会においては有権者の利益向上は、政権維持に不可欠です。
だから、正義をかざして、負ける為の戦争を遂行するのでしょうか?