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日銀のジレンマ・・・為替介入できない本当の理由

2010-09-01 11:40:00 | 時事/金融危機


■ 円高で為替介入が叫ばれていますが・・・。 ■

円高で輸出企業がダメージを受ける為、日銀に対して為替介入を要求する声が高まっています。ところで、為替介入って実際にはどの様に行われるのでしょうか?

① 政府が政府短期証券(FB)(日銀が直接買い入れ出来る短期国債)を発行し、市場で販売する。
  
② 売れ残りを日銀が引き受ける

③ 政府短期証券(FB)で市場と日銀から入手した「円」を為替市場で売って「ドル」を買う。

それでは、いったいどれだけの規模の介入ならば効果を表すのでしょうか。小泉政権時代、塩川財務大臣の行った為替介入は「30兆円」だったと言われています。

実際には「1分間に10億円ずつ、24時間体制で円を売り浴びせ、これを35日間続けた」と言われています。この結果、アメリカで円高を仕掛けていたヘッジファンドが2000社以上倒産したと言われています。

一般人の想像を絶する金額なので、全く実感が沸きません。

■ 買ったドルはどうなるの ■

30兆円規模の介入を行えば、それに見合ったドルが日本政府の手元に残ります。ところがこのドルで日本政府がアメリカ国債を購入すると、困った事が発生します。

① 日本政府がアメリカ国債を購入する。
② アメリカ国債の利回りが低下する
③ 米金利の低下により、世界のマネーが円買いに走る
④ 円高・ドル安により為替の介入効果が相殺される

もし借りに政府がドルを市場運用したらどうでしょう?

① 政府が民間金融機関のドル運用を委託
② 株安の折、安全な運用先としてアメリカ国債を購入する
③ 米国債の金利が低下する、
④ 円買・ドル売りにより介入効果が相殺される。

以上の様に、米国債の金利が極限まで下がっている現状では、政府・日銀の為替介入は砂に染み込む水のごとく、どんどん市場に吸収されて、後は無価値のアメリカ国債だけが手元に残ります。

■ 市場に出回った円はどうなるの? ■

一方、介入によって為替市場で売りまくられた円はどうなるのでしょう?30兆円もの円が一気に市場に溢れれば、たちまちインフレの引き金を引く事になります。そこで従来は日銀によって「不胎化」という操作がなされていました。

① 日銀が為替介入と同額の短期国債を市場で売却する
② 為替介入と同額の円が日銀に吸収され、「インフレの不胎化」が行われる

ところが、現在の様に日本国債の消化が危ぶまれる状況で、一気に30兆円もの国債を市場で売却すればどうなるでしょうか?

① 日本国債が供給過剰になる
② 国債が売れ残る。
③ 日銀が売れ残りの国債を直接引き受ける

さて、中央銀行による国債の直接引き受けは「禁じ手」です。FRBも欧州中央銀行も既にこの禁断の領域に足を踏み入れていますが、国家債務がGDPの200%に達する日本でこの様な事態になれば、市場は過激に反応します。

① 日本国債の格下げ
② 国債の暴落
③ 長期金利の上昇
④ 国債利払負担の急上昇による財政破綻

あれ、あれ・・・何だか最悪のシナリオが待ち受けています。

■ 「不胎化」しなければどうなるか? ■

不況対策の一環として日銀にさらなる金融緩和を求める方々からは、「不胎化」せずに円を市場に放置せよとの意見も聞かれます。

これも程度の問題ですが、もし30兆円を「不胎化」しなければどうなるでしょう?

① 円がだぶついて物価が高騰し始める
② 金利がじわじわと上昇を始める
③ 国債金利が低ければ、金融機関は低金利の日本国債を手放す
④ 国債市場が暴落し、金利上昇に歯止めが掛からなくなる
⑤ 国債の利払いが急増し、日本の財政が破綻する

あれ、あれ・・・こちらも最悪のシナリオです。

■ 一部だけ「不胎化」をすればどうなるか? ■

それでは、インフレが発生しないように、10兆円程度を市場に残したらどうでしょう?

① 折からの米経済の失速感で株式市場と実体経済は日米ともに冷え込んでいる
② 市場に供給された円は安全資産としての「日本国債」や「米国債」へ流れる
③ 米国金利が低下して、円高圧力が高まる
④ 介入効果が薄れる

「みんなの党」が求める日銀のバラマキ路線も基本的には同じ結果となりますが、アメリカの二番底が確実視されている状況で、供給された円は融資や設備投資には向かいません。結局、「需給ギャップ」が埋まらない限り、マネーサプライをいくら増やしても景気は回復しません。

■ 日銀のジレンマ ■

現状の世界の金融政策は、「世界的な需要不足」を原因とするジレンマに陥っています。この根本的原因を解決しない限り、政府の為替介入も無意味であり、ドル安の津波に飲み込まれてしまいます。

現状、円売り・ドル安介入はアメリカ国債の購入というプレゼント以外の何者でも無いのです。「みんなの党」を中心に、為替介入を声高に叫ぶ声は、私には「アメリカを援助しろ」という声に等しく聞こえます。

さらに現在の85円という為替水準が投機的なものでなく、ドルの実力と市場が判断している訳ですから、大量に市場にばら撒かれる「安い円」程、為替ディーラにとって美味しいものはありません。円安はやがて円高に転じますから、安く円を買って高く売ればぼろ儲けです。為替介入は、外為特別会計に数十兆円の赤字を増やすだけの結果に終わる事が目に見えているのです。

一見、為替介入に腰の重いように見える菅首相や白川総裁ですが、介入したくない理由がきちんと存在しているのです。

しかし、83円、80円と円高が進行したら、介入せざるを得なくなります。効果の無い介入で、日本の手元にはアメリカ国債が積みあがっていきます。(正確にはアメリカの倉庫の中らしいですが・・・。)

■ 為替介入を主張する小沢一郎 ■

小沢一郎氏は為替介入に前向きな発言をしています。一見、国民の為に見える為替介入が実はアメリカの為である事を決してマスコミは書きません。

私は小沢氏や亀井氏の様に、「国民の為の政策」を大声で主張する政治家を信じません。財政出動も為替介入も最終的に何処にお金が流れていくかを考えれば、彼らが誰の手先であるかは自ずと気づくものです。