■ むかし、むかし、ある村に・・・ ■
むかし、むかし、ある村に、カニの親子が住んでいました。
あまり豊かでない村で、カニの親子は、わずかな田畑を耕していました。
カニは僅かばかりの作物を街に売りに行き、僅かばかりのお金を手にしました。
カニのお母さんは、子ガニ達のために、そのお金で「おむすび」を買いました。
その帰り道、向こうからサルが歩いてきました。
サルはカニの「おむすび」を見ると、ニヤリと笑いながらこう言いました。
「美味しそうなオムスビだね。
でも、オムスビは食べたら無くなっちゃうよ。
どうだろう、ボクが持っているカキの種と交換しないかい?
カキはきっと沢山実が成るから、カキの方が得するに決まっているさ。」
カニのお母さんは「儲かる」と聞いて大喜びしました。
早速、オムスビとカキの種を交換する事にしまいた。
するとサルはこう言いました。
「このカキはね、君の村では育たないんだよ。
どうだろう、ボクの村で大事に育ててあげるから、
ボクに預けないかい?」
カニのお母さんは大喜びでサルにカキの種を預けました。
村に帰ったサルは、カキの種を適当に植えておきました。
ところがどうでしょう、カキの種は芽を出して、
数年後には沢山の実を付けました。
サルの村の人たちは、カキを美味しく食べてしまいました。
後には沢山の種が残りました。
しばらくするとカニのお母さんからサルに電話がありました。
「サルさん、私のカキは大きくなりましたか?」
するとサルはこう言いました。
「カキが実を付けるには、もう少し月日が必要なんだよ。
それに肥料代もバカにならないんだ。
どうだろう、ちょっとお金を送ってくれないかい?
そうすれば、沢山肥料があげられるから、カキは早く実ると思うよ。」
お母さんカニは、少しずつ貯めておいた大事なお金をサルに送りました。
サル達は大喜び。
そのお金で家を建てたり、車を買ったりしました。
それからもカキは毎年実り、サル達はカキを食い散らかしました。
後には沢山のタネが残りました。
ある日、一匹のサルが言いました。
「この種でクッキーを焼いたら売れるかな?」
ほかのサルが言いました。
「カキの種だけじゃ不味いかもしれないよ。
もっと草の実とか、木の実とか入れてみよううよ。
どうせタダだから損はしないさ。
泥だっていいかも知れない。
苦味も隠し味になるかも知れないよ。」
そこでサル達はカキの種とそこら辺にあるものを適当にすり潰して
美味しそうなクッキーを焼き上げました。
サル達は早速カニに手紙を書きました。
「我が村の特産品のスペシャルクッキーはとっても美味しいよ。
カキが実るのには時間が掛かるから、
スペシャルクッキーは如何でしょうか?」
カニの母さんは、サルがカキの面倒を見ていてくれるお礼に、
スペシャルクッキーを買うことにしました。
カニに届いたスペシャルクッキーには注意書きがありました。
「このクッキーは暫く寝かせておいた方が風味が増します。」
カニの母さんは、クッキーを神棚に供えて、
美味しい臭いして来るのを、今か今かと待ちました。
1週間が過ぎた頃、カニの母さんはクッキーから変な臭いがする事に気付きました。
神棚から下ろしてみると、クッキーはカビだらけになっていました。
母さんガニは慌ててサルに電話を掛けました。
「説明書の通り、クッキーを寝かしていたらカビてしまいました。
クッキー代を返してもらえますか?」
するとサルはこう言いました。
「カビはクッキーを美味しくするのさ。
いいカビが生えたみたいだね。
カニさんの村は、スペシャルクッキーにぴったりの環境なんだね。
どうだろう、もう少しクッキーを買わないかい?
熟成したクッキーは高い値で売れるよ。」
カニの母さんは、何だか釈然としませんでしたが、
「儲け」という言葉に弱いので、
隣りのウスにお金を借りて、又クッキーを買いました。
しばらくするとカニの家からくさい臭いが漏れ出しました。
隣りのウスが様子を見に行くと、
神棚にカビだらけの何だか分からない物が積んでありました。
「カニさん、あのクサイのはいったい何だね?」
「ウスさん、知らないの?あれはサルさんの村の特産でスペシャル・クッキーだよ。
もうそろそろ食べごろかもしれないよ。」
「どうだろう、この間お金を貸したお礼に、一個食べさせてはくれないかい?」
「しょうがないね。高いから味わっておくれよ。」
ウスはワクワクしながらクッキーを一口ほおばりました・・・・・。
その夜、ウスさんは下痢が止まらず、救急車で運ばれて行きました。
お人好しのカニの母さんも、さすがに騙された事に気付きました。
サルに急いで電話を掛けると、
「この電話は現在お客様の都合で使われておりません・・・」
と言うではありませんか。
仕方が無いので、カニの母さんはサルの村まで出かけて行きました。
サルの村に着いたカニの母さんは、
その荒れ果てた村の様子にビックリしました。
家にも、車のも差し押さえの札が貼られています。
通りには、昼間から仕事もしないサル達がゴロゴロしています。
そうして、カニの母さんはとうとう、あのサルの家を見つけました。
カニの母さんは、サルに詰め寄りました。
「あたしのカキの木は何処だい?あれだけでも返しておくれよ」
サルはダルそう庭を指差しました。
そこには無残に枯れ果てたカキの木が立っていました。
カニの母さんはブクブクと泡を噴いて倒れてしまいました。
その頃、カニの家では怒り狂ったウスが乗り込んで来ました。
「オレの貸した金を返してもらうぞ。」
ウスは家中探しましたが、お金はありませんでした。
家では子ガニ達がただブルブルと震えているばかりです。
ウスはその細い目で子ガニ達を見つめました。
・・・まあ、いいか・・・・。
むかし、むかしの話でした・・・。