■ おめでとう原恵一監督 ■
オタクネタが続いてスミマセン。
軽々しく「経済危機」なんて書いている状況でもなくなってきたので、
楽しみで書くブログくらいは、現実から逃避したい・・・。
さて、本日のお題は、この度めでたく仏アヌシー国際アニメーション映画祭で「カラフル」が特別賞と観客賞をW受賞した原恵一監督と、その原作の話。
< http://animeanime.jp/news/archives/2011/06/w.html から引用 >
6月6日よりフランスで開催されていたアヌシー国際アニメーション映画祭の最終日6月11日に、コンペティション部門の各賞受賞作品が発表された。このうち長編アニメーション部門で、日本から出品された『カラフル』が特別賞(Special Distinction)と観客賞(Audience Award)の2部門を獲得した。
-後略-
< 引用終わり >
私としては、ベンチアとか、ロカルノとか、ロッテルダムなどというもう少しメジャーな映画祭での受賞を期待していましたが、昨日NHKで本人がインタビューされた事で我慢します。尤もアヌシー自体、カンヌ映画祭のアニメ部門が独立した歴史を持っていますから、「カンヌ映画祭アニメーション部門のW受賞」と言い換える事が可能です。
さて、グランプリはどのアニメかと思ったら、短編のこんな作品でした。
これはこれで、ほとんど開いた口が塞がらない程の面白さ・・・。
<再掲載>
「非凡とは何か・・・原恵一/カラフル 2010.08.28」
■ ハンカチ持参で劇場へ行くべし ■
「クレヨンしんちゃん・大人帝国の逆襲」、「あっぱれ戦国大合戦」の二作品で、日本中のお父さん、お母さんに感動の涙を流させた原恵一。実写映画を含めても、現在の日本で最も優れた監督である彼の最新作が、森絵都原作の「カラフル」です。
原作は昨日、このブログで紹介した様に、良い子の中学生・高校生の読書感想文にぴったりの「読みやすくて、分かりやすくて、感動できる」作品です。
ブログで予告した通り、家内を連れて劇場へ行ってきました。
彼女は前半はコクリ、コクリと居眠りをしていたくせに、気付くと感涙にむせび、ティッシュでハナをかんでいました。良い場面で、グシュグシュと・・・。
とにかくハンカチ持参で劇場にGO!・・・・おしまい。
■ 無駄の排除 ■
原恵一版「カラフル」は、原作を忠実にトレースしながらも、作品に隠されていた全く別の側面に光を当てています。児童小説である原作が、子供達に分かりやすい様に、多少現実離れした人物の性格付けやエピソードを用いてストーリーを展開しています。
原はこの「小説的な無駄」を一切排除しています。母親の浮気の動機も、真が父を嫌悪したエピソードも、兄の弟に対する嫌がらせも、バッサリ切り捨ててて、小林家を全国のどこにでもある普通の一家庭として定義しています。
その上で、それぞれの人間関係を映像によって緻密に浮き彫りにしていきます。
■ スクリーンに「我が家」が現れる ■
室内のシーン、特に食卓のシーンはホームビデオで取った様な、一見すると雑にも思える構図を積み上げていきます。狭い室内で壁を背にして撮影しているかの様な、アップ気味の顔の映像。手前に座る人物の背中越しの映像・・。
するとどうでしょう。スクリーンに映しだされているシーンは、段々と我が家の食卓の様に思えてきます。何処も特別でない、ありぐれた一家の食卓。そこに居るのは、妻であり子供達であり、私自身であるかの様な感覚が沸いて来ます。
今、小林家でおきている事を、わが家、わが身の事態として観客は感じ始めます。
■ 風景の力 ■
一方、屋外のシーンは感動的な映像に溢れています。
等々力渓谷の清流。多摩川の土手。玉電跡の遊歩道。これらの過剰なまでの緻密に書き込まれた風景は、私達にその場所の空気や風を運んできてくれます。
圧巻は、真が天使のプラプラと別れる学校の屋上のシーン。夕暮れの刻々と変化する空の色が時間の変化を刻み、気付くと冬の夕暮れの大気が劇場内に満ちています。
私達はその景色の中で、確かに小林真の気持ちを感じ取る事が出来ます。
■ アニメでしか出来ない事 ■
「河童のクウ」も実写的な構図が多かった原恵一ですが、「カラフル」では、「実写」で簡単に撮れる映像を、あえて手書きにしています。
原自身、かつてインタビューで、「声優の声が気持ち悪く、アニメ的な動きや構図が嫌いだ」と語っています。では何故手間を掛けてアニメを撮るのかと問われて「手書きの絵でしか出ない味がある」と語っています。
この「アニメでしか出ない味」とは何でしょう?
それは、「完全にコントロールされた世界」なのかもしれません。
ラフな背景も、緻密な背景も、そのシーンに必要な絵は、原のイメージのまま作り出せるのがアニメです。それは、時間をも超越して、既に無くなってしまった玉電を、カラーの映像で走らせる事もアニメでは自在です。
この「完全演出」が可能なゆえに、原はアニメに拘るのかもしれません。
原アニメの中では、原は完全無欠な創造主であるのです。
■ 抑制 ■
しかし原はアニメの持つ「完全世界」をあえて抑制し、封印しています。
アングルは決して「実際のカメラ」の取りうるアングルから逸脱しません。
この抑制は「人物」にも及び、人々がアニメキャラ的振る舞いをする事はありません。
この「自己規制による不自由」さを正面からブレークスルーした先に、原恵一だけが到達できる極限の表現世界が存在している様です。
■ 映画自体が小林真 ■
「カラフル」の前半は、音楽も色彩も動きも少なく、抑圧的な空気が支配しています。
家内などは、眠気を催していましたが、この単調で息苦しい世界が小林真の感じている世界なのです。
ですから、早乙女君との交流が始まった瞬間から、世界は一遍します。風景は光に満ち、風が流れ、音が溢れ出します。小林真の世界が動き始めたのを、観客は実感します。
■ アリエッティーの対極にある「非凡」 ■
ジブリの「借り暮らしのアリエッティー」は、アニメでしか作れない美しさに溢れています。しかし、作家の努力の殆どは、ジブリアニメを再現する事に傾けられ、ジブリの世界は現実の世の中から隔絶した理想郷となっています。
一方、原恵一の「カラフル」は、積極的に現実の世界にコミットし、現実の世界を改変しようと試みます。作家としてのスケールが格段に大きいのです。
大人も子供も、「カラフル」を見た後は、見る前と何か違った存在になっています。
親は子供を、子供は親を、そして友人を、もう少ししっかり見つめようという決意を胸に劇場を出る事でしょう。
そして現実の夕焼けを見て、「カラフル」の世界が、自分達の住むこの現実に他ならない事に気付くのです。
<再掲載>
「夏休みの読書感想文が終わらないお子様に・・・カラフル 2010.08.28」
■ 読書感想が決まらない ■
夏休みも残り数日となりました。お子様達の宿題はお済でしょうか。
この時期になると最大の難関は「読書感想文」ではないでしょうか?
「面白くて」「子供の為になって」、「かつ感想文が書き易い本」はなかなか見つかりません。
■ 「嵐が丘」は読めなかった ■
中学2年の娘は、読書好きです。「伊坂幸太郎」も「乙一」も「恩田陸」も大好きですし、「三崎 亜記」でも平気で読みます。
しかし、彼女に近代小説を読ませると、途端に挫折します。
そこで、「文学少女」という現在人気のライトノベルを読ませてみました。「文学少女」は、文芸部の美少女の部長と部員が、文学作品に良く似た事件に巻き込まれるシリーズです。
これがとても面白くて、1作目は太宰治の「人間失格」、二作目はエミリー・ブロンテの「嵐が丘」に似た事件に翻弄されます。娘とその友人達は、私の目論見通り、すっかり夢中で全巻を読破しました。そして、当然、題材になった名作の数々に興味が向かうと思いきや・・・駄目でした。
そこで、読書感想文の本として、「嵐が丘」を買ってみました。ヒース・クリフのダークヒーローぶりがクールなこの本なら、今時の子供でも興味を持つかと思ったのですが、何と1ページも読めないそうです・・・?
出版当時、問題作として社会に受け入れられなかった程「早すぎた名作」である嵐が丘も、今時の中学生に掛かっては過去の遺物なのでしょうか・・・。サービス満点の小説に慣れ親しんだ娘達には、どうも展開がダルくて受け入れられないようです。
■ 「カラフル」を与えてみる ■
そこで、「今風の本」に変更する事にしました。
昨年は「アヒルと鴨とコインロッカー」で苦労したので(読んで面白しろい本と、読書感想文が書ける本は違います)、今年は「中学生が感動して、教訓を得られる本」を選ぶ事にしました。
そして選んだのが森絵都の「カラフル」です。
単に、原恵一の映画の前に、私が原作を読みたかっただけとも言えますが・・・。
■ これこそ読書感想文の為にある本 ■
「おめでとうございます。抽選に当たりました!」という天使の一言で、死んで魂だけになったボクは、自殺した小林真の肉体に乗り移って、「自分が死んだ理由」を見つけるという修行をするハメになります。どいやらボクは罪を犯した魂らしく、この修行に合格しなければ、輪廻のサイクルから永遠に外れてしまう様なのです。尤も、投げやりなボクにはどうでも良い事に思えますが・・・。
ボクが乗り移った肉体は、中学3年生の小林真です。小林真は睡眠薬を飲んで命を落としました。彼は家族と思いを寄せる後輩の、知りたくない姿を知ってしまったのです。
生き返ったボクは、修行に消極的です。いえ、むしろ投げやりです。だから小林真も適当に演じています。周囲はその変化に気付きますが、どうやら小林真はクラスでも浮いた存在らしく、変なチビ女が彼の変化の真相を執拗に追求してくる以外は、誰も彼に関わりを持ちません。
そんな小林真の楽しみは美術部で絵を描く事。小学生の頃からコンクールで入選をする程、小林真は絵が上手です。小林真になったボクも放課後の美術室に向かいます。尤もボクの目的は「桑原ひろか」に会う事。ひろかこそが彼の自殺の原因ともなった、小林真がひそかに思いを寄せる後輩です。ところが、ボクもひろかに心を奪われてしまいます。あるいは小林真の肉体が反応したのかもしれません。
小林真の肉体を借りているボクですが、だんだんと「小林真の真実」がボクの心を痛めつけます。母親の不倫を生理的に嫌悪し、意地悪な兄を憎み、ひろかの援助交際に傷つきます。いつしかボクは小林真と同じ苦しみに沈んでいきます。
しかし、変化もります。小林真をダサイと思うボクは、髪をムースで固め、小林真の貯めた小遣いで最新のスニーカーを買って登校します。すると、同級生の早乙女君が声を掛けてくれます。「それ、高かったでしょう。」
早乙女君はボクの初めての友達になります。そして彼との交流が、ボクを少しずつ変えていきます。
・・・文体はライトノベルよりも児童文学的で、「つるん」としていて平易。設定は子供でも理解できる内容で、感情も複雑ではありません。しかし、しっかり考えさせられて、しっかりと泣けます・・・大人の私でも。
■ 「カラフル」とは人間の多様性の事 ■
題名の「カラフル」とは、人間の多様性の事です。
自分の世界で精一杯の中学生の小林真にとって、他人の多様性を受け入れる余裕はありません。そして、自分自身の多様性にも気付けないで自殺します。
しかし、代役として、投げやりに小林真を生きるボクには、周囲が冷静に見え始めます。母の真の姿、父との関わり、兄の言動の裏側、ひろかの悩み・・・。
灰色だと思っていた世界は、実は様々な色彩が混じりあってできていたのです。そう、世界は実に「カラフル」だったのです。
■ これから映画に行ってきます ■
今年は娘は一気に感想文を書き上げました。内容は良かったと思います。
ご褒美に原恵一のカラフルのアニメ映画を見に行かせました。本を読まない兄を護衛に付けて。
二人とも感動して帰ってきました。
兄も泣いたと言います。
「原作を読むか?」と聞いたら、「読まない」と一蹴されましたが・・・。
これから家内と映画館に行って、思い切り泣いてこようと思います。
夏休み、読書感想文にお困りのお子様に「カラフル」は一押しです。そして、ご家族で読んで、ご家族で映画に行って感動の涙を流して下さい。
おまけ
「BALLAD・・・アニメと実写」