■ 経済が壊滅状態なのに給料が支払われるのは何故 ■
コロナ禍で世界経済が麻痺していますが、多くの人が生活が破綻したり会社が倒産したりはしていません。これは各国政府が財政を拡大したからだと考える人も多いのですが、日本の場合は企業努力に依る所が大きい。
国会などでも日本企業の内部留保は大きすぎると追及されて来ましたが、現在企業はこれを切り崩して社員に給料を支払い雇用を維持しています。さらには、銀行から無利子融資を受けて急場を凌ぐ企業も多い。日銀はこれらの融資にゼロ金利の資金を無尽蔵に提供しています。企業の返済は5年後からですから、急場の資金に瀕した企業はこれに頼って雇用を維持しています。
コロナ禍によって経済はほぼ麻痺しているにも関わらずGDPの落ち込みが思いのほか小さいのは、この様な企業の雇用維持の努力が支えているのです。
■ 国家はセーフティーネットとして財政を拡大している ■
コロナ禍で各国とも財政を拡大していますが、これはセーフティーネットとして機能します。
国民に直接給付金をバラまいたり、生活保護を充実したり、雇用調整助成金を企業に給付して雇用を維持したりしています。
ケインズ経済学的には公共事業を拡大するのが一般的な景気対策でしたが、現在は緊急時ですので「直接給付」が中心となっています。
■ 先進国の国債残高の対GDP比は第二次世界大戦後を越えた ■

読売新聞 2020/09/07 より
上のグラフは先進国と新興国の国債発行残高の対GDP比の長期チャートです。リーマンショックご、国債残高はジワジワと増えていますが、コロナ禍で軽々と第二次世界大戦後の国債発行を抜いてしまった。
対戦後に発行された国債の償還に各国は苦労しました。
日本は急激なインフレを黙認し、預金封鎖と新円切り替えを行って、既発国債の価値を実施的に圧縮(無価値化)する事で危機を脱しました。
アメリカは戦争の被害の唯一少なかった先進国なので、戦後復興の恩恵によって経済成長が著しかった。豊富な税収と、適度なインフレ率で、国債を順調に消化していった。(表向きとしてはだと思います。アメリカ経済は国債償還が多くなる10年周期で混乱している様にも見えます。そしてニクソンショックへと繋がった)
イギリスでは金融抑圧によって15年以上を掛けて徐々に負担を軽減して行きます。実質金利よりも金利を低く抑制する事で、国民の資産をこっそりと掠め取る高等テクニックです。「インフレ税」とも呼ばれています。
この様に実体経済の規模に対して国債発行残高が過剰になると、普通の方法では国債の償還が難しくなります。
途上国では通貨危機が同時に発生して通貨価値が失われてインフレ率も急上昇するので、デフォルトが選択されます。国家による借金の踏み倒しです。元々信用の低い途上国では、デフォルトで失われた信用など、短期間で回復します。(というよりは、その程度の国という認識が定着するだけ)
問題は現在の先進国の様に経済成長が望めない場合で、税収も増えず、金利も低利で推移するので、国債の発行額や金利をインフレによって陳腐化する事が出来なくなります。デフォルトも選択できないので、低金利で問題を先延ばしにする間に、国債残高はどんどん膨らんで行きます。この方法はインフレや金利上昇に脆弱です。
■ 中央銀行が劣悪な資産を増やしながら、通貨を増刷している ■
三橋貴明教信者は「政府の借金=民間の資産」などと良く言いますが、現状は民間も政府も借金を積み上げています。ではその借金は誰の資産なのでしょう?
統合政府で考えれば「国の借金=中央銀行の資産」です。
民間の借金も信用創造では無く、日銀の資金供給が支えていますから「民間の借金=日銀の資産」と考える事が出来ます。
一方で日銀の資産は「国債」と「倒産するかもしれない企業への融資の肩代わり」でいっぱいになって行きます。これは各国とも同様ですが、FRBなどはジャンク債なども市場から買い入れているので、FRBの資産はゴミだらけとなっています。
■ バットバンク化する中央銀行 ■
金融機関などが経営不振に陥ると、良質な資産で運営を続行する「グッドバンク」と、不良債権を集めた「バットバンク」に切り分けて、バットバンクの資産を時間を掛けて処理する方法が経済へのインパクトが少ないとされています。
リーマンショック後、世界の中央銀行は「金融緩和」や「量的緩和」の名目でバットバンクの役割を引き受けました。銀行から債権やMBSなどを買い入れて、銀行に資金注入をした。
FRBのテーパリングはこれらの「ゴミ資産」を売りさばく事も含まれていましたが、2019年の中頃には頓挫しています。
コロナ禍によって各国中央銀行はバットバンクの度合いを増す結果になりました。政府と民間の将来不良債権化するであろう借金を事実上引き受けたのです。
■ 金利上昇に弱い金融緩和(量的緩和) ■
金融緩和や量的緩和の目的は金利を下げる事です。国債金利の低下は、政府の金利負担を軽減して国債を発行し易い環境を作ります。市中金利の低下は企業が借金し易い環境を作る事で、企業の経営を助けます。
景気が回復すれば資金需要が活発化するので金利は上層します。その時点で緩和を継続するとインフレが加速して国民の生活を圧迫するので、緩和的金融政策は金利が上昇してくると継続が難しくなります。

上のグラフは米国債金利(10年債)の金利推移ですが、コロナ禍によるFRBの緊急の国債買い入れで10年債金利は一気に下がりました。しかし、その後上昇に転じて現状は1.17%となっています。多分2%までは順調に上昇するでしょう。
米国債はアメリカの「商品」ですから、ある程度の金利が無いと売れません。しかし、あまり金利が高くなると、財政の継続性に疑問が持たれるので、国債が売られて金利上昇が加速します。リーマンショック後に何度か金利が4%を超える局面がありましたが、その度に資産市場が混乱して米国債市場に資金が戻るという現象が発生しています(不思議だ)。
国債発行残高がコロナ禍で急拡大したので、米国債に許容される金利の限界も低下しています。それが3%なのか、2%台なのかは私には分かりませんが、リーマンショック後同様に、どこかにボーダーラインがあって、そこに触れそうになると、株式を始め多くの市場が混乱するハズです。
■ 不景気の中で上昇する株価と原油価格、そして金 ■
「コロナ禍で不景気の中で株価が上層しています」というアホな報道が毎日の様に垂れ流されています。過剰流動性の受け皿になっているだけの話ですが、何も知らない人達は「不景気でも株は儲かる」と曲解します。

原油先物価格

金相場
過剰流動性は株式市場だけでなく、あらゆる資産市場に流れ込みます。コロナ禍で急激に低下した原油価格も、需要が低迷しているにも関わらず、いつの間にやら40ドル/1バレルまで戻しています。金相場も市場最高値を更新中。
これら資産価格の上昇は、「過剰流動性」に支えられていますが、「過剰流動性=余ったお金」を意味します。「お金が余るとは何と羨ましい」と思ってしまいますが、「多すぎる」のですから「価値は失われ」ます。
通常の経済では、お金の価値が失われれば物価が上昇します。いわゆるインフレです。しかし、拡大し過ぎた資産市場を抱える経済では、インフレは資産市場に現れます。そして、それはやがてバブル化する。現在がまさにその状況なのです。
■ ジリジリと上昇する物価 ■
日本のバブル崩壊後、そしてリーマンショック後の世界では、金融市場が資金を吸収する事で市中金利を抑制し、それによって国債金利もゼロ近傍に張り付けていました。これが金融緩和経済の本質。但し、金融緩和経済は資産市場のバブルの崩壊という限界を抱えています。
ただ、バブルが崩壊すると実体経済が冷え込んで、再び低金利フェースへと入るので、資産市場が回復する事で、金融緩和経済は何度も復活して来ました。
ところが、金融緩和経済が継続出来なくなる事態も存在します。それが実体経済での物価上昇(インフレ)とそれに伴う金利上昇です。
実は現在世界ではジリジリと物価が上昇しています。原因はコロナ禍によるサプライチェンの寸断。要は「供給制約によるインフレ」が発生しているのです。
三橋貴明教信者は、「現在は物余りでデフレなのだからインフレなど発生しない」と言っていましたが、コロナ禍や、或いは米中の緊張の高まりによっては供給制約は発生します。
ワクチン接種が各国で始まっていますが、経済が再始動し始めると、巣ごもりしていた人達が解放感から財布の紐を緩めます。消費が拡大する事で、物価がピョコーッっと跳ね上がる。これに市場は敏感に反応しますし、或いはそれ以前にその事態を織り込んで相場が下落する可能性が高い。
■ 物上昇 → 緩和縮小 → 金融パニック ■
先に金融緩和の継続条件はインフレ率が低い事と書きましたが、物価上昇はコロナ封鎖が解除される時点で必ず発生します。
緩和マネーが減ると予測した市場全体に混乱が発生します。
アメリカは財務長官にイエレン氏を据え、失業対策の名目で財政拡大を続けると思われますが・・・市場が混乱した時に、イエレン氏はマジックを使えるのか、或いはFRBはどんな禁じ手を繰り出してくるのか・・・。
■ 経済を救い続ける「ルールブレイカーという宝具」 ■
彼らはいつもルールを破って我々の「崩壊」の予測を回避し続けている。経済が科学ではありません。ルールは「ルールーブレイカーという宝具」によっていでも変化します。
戦後の混乱も、ニクソンショックも今思えば「ルールブレイカー」が発動していた。当然、リーマンショック後も・・・。
「ルールブレイカー」に信頼を寄せる人達は強気で利益を拡大し続けています。はたして、ソドムとゴモラの享楽を神はいつまで見逃し続けるのか・・・。まあ、神が存在するとしても、経済の神はロクなヤツでは無さそうですが。