■ 日本のデリバティブ残高 ■
日銀のホームページに日本のデリバティブ残高の統計が出ていたので、グラフ化して、ついでにアメリカのマネタリーベースを重ねてみました。(グラフの縦軸の単位が異なるので注意)
2020年末で66兆米ドル程のデリバティブ残高が有ります。グロスではプラスが6600億ドル程度、マイナスも6600億ドル程度となっています。この数字が大きいのか、小さいのか、私などには判断が付きませんが、ドイツ銀行が1行で抱えていたデリバティブ残高は一時期は50兆ドルに達しています。(グロスでは200億ドル程度)
日本の金融機関は保守的ですから、海外の金融機関に比べればデリバティブ残高を積み上げてはいない様です。
■ デリバティブとは ■
金融素人の私達には理解が難しい「デリバティブ取引」。日本語では「金融派生商品」と呼ばれています。
1)リスクを回避する為の取引
2)リスクを取って利益を拡大する為の取引
1)は為替リスクを軽減する様な取引(為替予約)が代表的な例でしょう。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などもリスク回避のデリバティブ取引です。
この様なリスク回避の取引の裏側には、リスクを取る取引も存在します。例えばCDSはリスクが意識されると金利が上昇しますが、この金利を積極的に取りに行く投資家も居ます。
リスクが高まるとデリバティブ商品の価格が下がります。デリバティブを大量に保有する金融機関は含み損が膨らみます。例えばドイツ銀行は200億ドルのグロスのデリバティブを保有していましたが、総資産は230億ドルでした。危機の際には保有債券なども値下がりしますから、債務超過に陥る可能性が高まります。(ドイツ銀行はその後デリバティブ残高を減らしていますが)
デリバティブ取引自体は、金融取引のリスク軽減の為に重要な役割を果たしていますが、危機が顕在化すると、デリバティブ自体が危機の元凶になる事も有ります。
■ 狂った様な金融緩和の割りに、デリバティブ残高はあまり増えていない ■
試しに日本のデリバティブ残高にアメリカのマネタリーベースを重ねてみましたが、緩やかな相関が見れられます。米マネタリーベースが減少する時は、デリバティブ残高も減る傾向にある。
では、コロナ禍の狂った様な金融緩和が行われている昨年来はどうかと言えば、昨年末までの統計では、日本の保有するデリバリー残高は、それ程増えてはいません。株価の上昇などに比べると、伸び率は鈍い。
これが何を意味するか・・・「投資家はリスクを意識している」と私は妄想しています。巨大な過剰流動性が発生する中で、株式など短期的な取引は増えていますが、金融取引自体はそれ程活性化していないのでは無いか・・。
■ 金利上昇で潮目は既に変わっている ■
先日の野村証券の巨額損失など、リスクが徐々に顕在化して来ています。金利がジリジリと上昇する中で、投資家はリスクを意識せざるを得ない。
野村証券が損失を被ったアメリカの個人投資企業のアルケゴスの損失は分かっているだけでも1兆円、(5兆円という噂も・・・ウソだよね・・・?)。これが1社だけの取引の失敗に終わるとも思えません。同様のリスクが大量に存在すると考えるべきです。実際に多くのアナリストが第二、第三のアルケゴスの出現を警告しています。
デリバティブ残高だけ観れば「消極的」とも思える日本の金融機関も、ゼロ金利が長引く中で、金利獲得の為に様々な危険な取引に手を染めています。アルケゴス相手の取引は多額の手数料が取れる為、三菱UFJ証券やみずほ銀行なども取引をしていた。
バイデン政権の拡大財政路線を好感する市場ですが、一方で、拡大財政のもたらす金利上昇は、リスクを確実に顕在化させて行きます。
「Sell in May」という株式の格言が有る様に5月が市場が不安定化します。5月から市場の崩壊が始まり、2024年に大崩壊が起ると予測する人も居ます。
とかく株式市場だけが注目されますが、債権市場やデリバティブ市場は巨大です。なかなか素人には分かり難いジャンルではありますが、金利上昇への警戒は怠り無く。