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映画・演劇のレビュー

中村航『あのとき始まったことのすべて』

2010-08-01 22:38:37 | その他
 なんだか読んでいて恥ずかしい気分にさせられる。こんなにも幼い感情が小説として万人に向けて提示されていいものなのか、と心配になるほどだ。まぁ、これは僕が心配するようなことではなく、編集者がOKを出して、出版されたのだから、大丈夫なのだろう。ちゃんと読者が受けとめ、小説として認知されたのだからなんの問題もない、はずなのだ。

 だが、というか、僕は、これが小説である、ということすら、信じられない。こんなものただのセンチメンタルな日記レベルの文章にしか見えない。こんな感傷が長編小説として成立としているなんてそれだけで奇跡だ。ただ甘いだけではない。気恥かしいし、読んでいて照れてしまう。だが、それが中村航の世界だ。

 15歳の頃の自分たちを信用できるか、本当ならかなり不安になるところだ。なのに、あの頃の純粋だった(たぶん)心が、10年後も続き、再会した2人はあの頃のまま今も生きている。その事実に感動する。もちろん10年の間にお互い大人になった。社会人となりそれぞれ仕事も頑張っている。だが、心の中はあの頃のままだ。25歳になった今と、10年前が交錯する。これは4人の男女の物語だ。

 石井さんと僕。2人は同じクラスで、いつも一緒だった。そして、親友だった柳と、僕の初恋の人である白原さん。なぜか4人は気が合う。中学の修学旅行で行った奈良、京都、大阪。そこでの時間。夢のような時間がそこにはあった。みんなで過ごす旅。人生最高の想い出の一コマ。10年後の再会の後、様々な想いを秘めて2人は再びあの奈良に行く。大人になった2人があの日の約束を叶えるため。

 再会し、あの頃伝えられなかった想いを伝えたのに、しかもお互い好き同士だったということを確認できたのに。願いは叶うはずなのに。なのに、うまくいかない。好きだという気持ちだけではどうにもならないものがそこにはある。それは大人の論理なのか。25歳は大人か?

 50歳の僕に言わせると、25歳なんてただのガキでしかないのだが、現役の25歳にはきっと充分に大人で、彼らは自分たちの「大人の考え」に振り回される。この小説はそんな彼らを等身大のままに描く。だから僕は恥ずかしいのだ。だが、この恥ずかしさは嫌いではない。彼らの生真面目さはそれはそれで尊いものなのだ。

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