習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

金蘭会高校『ハルメリ』

2010-07-29 22:12:56 | 演劇
 ハルメリという言葉がこの2時間10分の芝居の中で何度交わされたことだろうか。100回や200回では足りない。もう無限大にハルメリが増殖していく。この無意味で、だからこそ、それにすがりつきたいという願望。現代人の孤独をこの壮大な茶番劇は根底に持つ。黒川陽子さんの台本のすごさは過剰であることに抑制をかけないところにある。限りなく暴走するハルメリを実に醒めた目でみつめている。こんなこと茶番であることは誰もが知っている。知っていてこの茶番につき合う。

 いつでもこんなところから抜け出せるとわかっているから安心して茶番を戯れる事が出来る。オウムの時代とは今はもう違う。誰も宗教なんかにすがりつかない。ハルメリはくだらない。ハルメリに意味はない。ハルメリを信じない。だが、ハルメリをおもしろがり、ハルメリと戯れ、ハルメリを生きている。そんな愚かな人々の姿をどこまでもエスカレートするバカ騒ぎとして描くこの台本を得て、金蘭会高校演劇部は、いつもの全力でこの世界と向き合う。

 彼女たちはシニカルにこの世界を描く気はない。今回の彼女たちのメソッドは、全員が正面を向いて大声を出して芝居をするというところに特徴がある。そこからの一点突破でこの台本と対決する。最近こういう芝居を見たことがない。平田オリザの対極を行く今時はやらない嘘くさい芝居の典型をいくスタイルだ。もちろん意図的にこのスタイルを取り込んでいるのだが、役者がみんな客席にむけて大声で喋るのは異様である。

 ここには人と人とがむきあってコミュニケーションをとる、という考え方はない。人は正面を向いてまっすぐに喋りながら、誰ともむきあってはいないのだ。この芝居はそうすることで、人と人との絶望的な距離感を描く。こんなにも出口のない話を、金蘭会の少女たちは持ち前の「若さ溢れるPower & Passion」でむきあったこと。その事実に心打たれる。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『インセプション』 | トップ | 中村航『あのとき始まったこ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。