習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

椎名誠『大きな約束』

2009-05-01 22:29:31 | その他
 椎名さんがじいじいになった!それは当たり前のことなのになんだか驚きだ。孫と電話で話しながら、じいじいはね、なんて自分から話すなんて想像しただけで不思議な気分だ。というか、想像ではなく、そんな状況がこの本のなかでは描かれている。あの『岳物語』から25年が経つらしい。そりゃぁ岳だって大人になり、結婚し、子供を育てることだろう。結果的に椎名さんはおじいちゃんになる。

 昔、映画を撮っていた頃、なんていう記述を読むと、なんだか不思議な気分になる。椎名さんにとって『うみそらさんごにいいつたえ』の時代はもう昔話の世界なのか、と思うとそれも不思議な気分なのだ。椎名さんにとって映画時代は終わっているのか。いつまでも映画ばかり見ている僕たちの中では、今も椎名さんは現役の映画監督でもあるのに、である。なんだかそれは寂しい。椎名さんにとって映画は一過性のものだったのか、なんて言う気はない。

この本を読みながら信じられないくらいに時が経っているのだなぁ、なんて、そんなことばかり考えていた。自分の子育て時代と『岳物語』の出版時期が重なるからあの本にはすごく影響を受けた。しかも、後日高校の教科書でも取り上げられたから、何度も読んでいる。いろんな意味で愛着がある。今回はあの作品の続編である。まぁ、折あるごとにこの手の作品は書かれているのだが。

 今まで椎名さんを読んでいてあまり時の流れなんてことは考えたことがなかったが、この私小説で彼が必要以上に自らの老いについて語っているのでついついそんなことが気になった。直接的にではなく間接に語られる老いの問題、それ椎名さんの今の本音に思える。幾つになっても同じように元気で世界を股に駆ける椎名さんのエネルギッシュな毎日が、確実に老いに蝕まれていることを痛感させる。なんて書いては失礼だな。

 いつまでも変わらず自由に生きる椎名さんだから、彼が本音で語るこの私小説風エッセイは読んでいて、強がり言わない等身大の椎名さんの姿に共感する。

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