こんな映画が公開されている。これは昨年中国でナンバーワンヒットを記録した作品らしい。なんと900億円の収益をを挙げたという話だ。中国人がみんな見て号泣した国民映画。ベタな映画であろうことは見る前からわかっているけど、実際に見始めて、ここまでやるか、と驚き、あきれる。いくらなんでも、今の時代の映画でこれはないわぁ、と唖然としながら仕方なく、見続ける。もう劇場に入ってしまったのだから、最後まで付き合うしかない。これはちょっとした地獄だな、とも思う。いかにも中国人が好きそうなコミカルな映画で、バカバカしい。
設定自体は『バック・トゥー・ザ・フューチャー』である。2001年から20年前にタイムスリップして若き日の母親に出会い、彼女が父親と結婚するのを阻止しようとする話。自分のような娘を産んでがっかりすることだらけだった彼女が幸せになってもらうために、自分を産むことのない未来のために、母と金持ちの男との結婚を策略するけど、なかなか上手くいかないとかいうようなコメディ。この映画の舞台となる80年代ならありえただろうノ~テンキでとろくさいタッチの映画で、うんざりさせられる。こういうのは7,80年代の中国の娯楽映画にはよくあったパターンだ。だけど、今時中国でもこんなのは作られないのではないか、と思う。だが、この映画は堂々とそれをする。確信犯なのだ。
そのことは、ラスト20分のまさかの展開で明確になる。こんな終わり方をするなんて想像もしなかった。安易に未来に戻って、めでたしめでたし、と信じ込ませるための策略だったのに、まんまと騙された。いや、策略だなんていう言い方は違うだろう。見事に作り手の掌中で躍らせされていたことに気づく。
まさかの夢オチに、ここまで泣かされることになろうとは、想像すらできなかった。夢オチは安易な解決法だと誰もが思うところを逆手にとって鮮やかな大逆転を見せてくれる。監督、脚本、そして主演のジア・リンの勝利だ。初めて映画を作った彼女が自分の経験(彼女と母親との実話)とキャリア(中国で有名な喜劇役者)を生かして、誰もが思いつきそうで、誰にも思いつけない、誰もが納得する映画を作った。終盤でここまで感動させられるなんて、前半の展開からは想像もできない。
幾ら贔屓目に見ても、これはただのベタな話だ。母親は子供を愛している。それだけが描かれる。それだけで、みんなを感動させ、泣かせる。凄いことだ。