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映画・演劇のレビュー

SSTプロデュース『眠っちゃいけない子守歌』

2011-12-29 09:28:36 | 演劇
 眠れない(というか、敢えて「眠らない」のだが)男(山口雅美)の血走った目と、いきなりの凶暴な応対が、一瞬、女(辻野可奈恵)を怯ませる。しかし、彼女はプロである。(何のプロなのかはやがてわかる)冷静に対応して、今自分の置かれている現状を把握し、自分の為すべきことをする。だから、男は少し落ち着いて女と向き合うこととなる。このオープニングの緊張感がとてもいい。

 SSTプロデュースの第2作は、前作『招待されなかった客』に続いて別役実の2人芝居だ。しかも、この2作品は完全な姉妹編をなす。今回は前回とは反対に、女の方が、男のもとを訪れるというパターンだ。(もちろん、この2人の男女は前作の男女とは別人である)

 たったひとり暮らす男は、もう何日も他人と言葉を交わしたことがない。記憶を失い、自分が誰なのか、何なのかもわからない。ただひとり眠っちゃいけないという強迫観念に支えられて、孤独に過ごす。もう何日も寝ていないようだ。だから、あんなにも目が血走っているのだ。彼に呼ばれて、派遣されてきた女は、お話をするためにやってきた。それが彼女の仕事だ。彼女は心を病んだ男のカウンセリングをする。

 この患者とカウンセラーという絶対的な関係は崩さない。その距離感がこの芝居のよさだ。辻野可奈恵の凛としたたたずまいがよい。山口雅美のエキセントリックなところもいい。ものすごい分かりやすい図式を作る。その安心感の上で別役実のいつもの不条理ドラマが展開していくことになる。男の心の傷を女が癒す。だが、病んでいるのは彼だけではない。彼女も含めたこの世界全体がきっと病んでいるのだろう。そんなふうに思わせる。90年代に書かれたテキストを使って、演出の当麻英始さんは今の時代に必要なものを、ここに提示する。この「厳しい優しさ」が、作品全体を「本当の優しさ」として包み込む。

 今年最後の1本にふさわしい心に深く沁み入るような小品だった。これこそが、小劇場の醍醐味。

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