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映画・演劇のレビュー

『私の少女』

2016-02-03 21:02:59 | 映画

2年振りのペ・ドゥナの新作映画らしい。少し大人になった『冬の小鳥』の少女キム・セロンと共演した。内容はとてもハードで、あまりに痛ましく見ているのがつらくなる。出来ることなら映画から目を背けたい。そんな気持ちにさせられる作品なのだ。でも、最後まで見る。義務というより、試練というような感じ。どうして、こんな思いまでして映画を見なくてはならないのか、と思うけど。

養父による虐待。彼から少女を守ろうとして、反対に訴えられることになる。同性愛者であることへの偏見。古い因習に縛られた慣れない田舎の村での生活。彼女はその性癖から、事件を起こし、エリートコースを外され、ソウルからここに飛ばされて来た(ようだ)。映画はそのへんをぼかす。説明はしない。小さな警察署の署長として就任する。スタッフは男性ばかり3人で、うち2人は自分よりずっと年上。彼女はアルコール依存症でもある。周囲に自分から溶け込まないから、軋轢が生じる。村人から煙たがられる。そんな中で少女だけが彼女を慕う。彼女を守ることが第一の仕事になる。だが、それは危険なことだ。それは彼女の本来の仕事ではない。仕事とプライベートのはざまで、どういうスタンスで接したならいいのか、難しい。しかも、養父から執拗な嫌がらせを受ける。どんどん追い詰められていく姿が、見ていると苦しい。常に村人たちの目に曝され、息が詰まるような生活も彼女を追い詰める。

やがて、少女が何をしたのかが明確になる。追い詰められたから反撃した、というようなわかりやすいストーリーではない。彼女の中にある屈折した心情に気づくペ・ドゥナの最後の選択は、僕たちを茫洋とした森へと誘い込む。少女を助けたいと思った。それは、自分を助けたいという気持ちに通じる。追い詰められているのは、ほかならぬ自分自身なのだから。

雨の中、車を走らせるシーンで終わる。彼女たちはいったいどこに向かって行くのか。その先には何があるのか。わからない。だが、あまり幸せそうな未来は見えない。


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